慶大SFC、コンピューター教室をPCレスに--Dropboxで学生のBYODを支援

石田仁志 藤代格 (編集部)

2020-11-06 07:15

 慶應義塾大学(港区、学生数3万3436人、教員数2737人)は、創立から150年を超え、小学校から大学、大学院までを擁する日本で最も長い歴史を持つ総合学塾である。その歴史のなかで1990年に、総合政策学部、環境情報学部を擁する湘南藤沢キャンパス(SFC)を神奈川県藤沢市に開設している。

 開設時から実践的問題解決能力の修得を目指す教育方針を採用するSFCでは、情報通信系、インターネットビジネス関連などの比較的新しい社会領域を中心に、これまでに多くの優秀な人材を輩出している。現在は、看護医療学部と政策・メディア研究科、健康マネジメント研究科が加わり、5061人の学生と131人の専任教員が在籍する。

“普通のコンピューター”を置いておく必要性に疑問

 慶應義塾は、全学の教育や研究を支援するための情報基盤を提供するインフォメーション・テクノロジー・センター(ITC)のほか、キャンパスごとのITCも設置している。慶應義塾ITCが提供する全学共通のITシステムに加え、それぞれの拠点における研究、教育支援を目的として各ITCが独自システムを運用しており、その一環でSFCでも2019年4月からクラウドストレージサービス「Dropbox Business」の利用を開始している。

 SFCでは2020年4月から全学生を対象として、プログラミングの授業において個人が所有するPCやタブレットなどの情報端末を持ち込んで活用する、私物端末の業務利用(Bring Your Own Device:BYOD)形式による授業をスタートさせている。これによって、一部の高額なソフトウェアを活用するようなマシンを除き、学内のコンピューター教室からPCをなくした。

 もともとSFCはインターネットの普及期から独自に最先端のIT環境を構築し、最新鋭の情報インフラやコンピューター、ソフトウェアを活用してきた。PC教室におけるプログラミング授業の際も、当初はワークステーションのほか、X端末と呼ばれるUNIX系シンクライアント型端末を活用していたが、2000年代に入ってからは一般的に普及したWindowsやMacといったPCが採用された。

慶應義塾大学 環境情報学部 教授の中澤氏
慶應義塾大学 環境情報学部 教授の中澤氏

 SFCの卒業生であり、慶應義塾湘南藤沢ITC(SFC-ITC)の所長を務める慶應義塾大学 環境情報学部 教授の中澤仁氏は、「かつては教室のマシンに触れることがコンピューターを習得するための教育になっていた。普通のコンピューターであれば、大学の教室に置いておく必要はない」との認識を示す。

 そこでSFC-ITC所長に就任したのを機に、セキュリティ対策や教育効果を考えてBYODの導入を決め、2018年6月からシステム対策面での検討に入った。

ストレージを普通に使えるという感覚を重視

 BYODを実施する際に、最も問題となったのがストレージである。金銭面でストレージ容量が少ないPCを選択せざるを得ない学生もいて、学生のさまざまなコンピューターに記憶領域をどう与えるか考える必要があった。特に重視したのが、「あくまで自分のPCからストレージを使っているのと同じ感覚で普通にクラウドストレージが使えることだった」と中澤氏はいう。

 「SFCのオンプレミスのストレージはキャンパス内からは触れるが、外からPCにマウントすることはできない。コンピューターに関してはさまざまなスキルの学生がいて、オンプレミスのストレージを自分のPCにエクスポートして使えるように設定できない学生の存在も予想される。実際、全学で活用しているグーグルの『G Suite』のストレージもあまり活用できていなかった」(中澤氏)

 その上で、スキルのある学生や教員がしっかりと活用できる、複数の海外の研究者たちとデータを共有できる、データ量の膨れ上がりに対応できるなど、求められる要件は広範囲にわたっていた。

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