「オラクル史上最大」の変化は製品からサービスへの移行

末岡洋子

2021-08-12 06:00

 OracleのSaaS事業が好調だ。直近の四半期は、Fusion ERPが46%増、Fusion HCMが35%増だった。その背景には、顧客の状況の変化に合わせた「Oracleの歴史上最大の変革がある」という。

Oracle クラウド・アプリケーション開発担当グループ・バイスプレジデントのRajan Krishnan氏
Oracle クラウド・アプリケーション開発担当グループ・バイスプレジデントのRajan Krishnan氏

 クラウド・アプリケーション開発担当グループ・バイスプレジデントを務めるRajan Krishnan氏は、「40年以上のOracleの歴史において、ここ数年で最も重要な変化が起きている」と話す。具体的には、製品ベースからサービスベースへのビジネスモデルの変革だ。これまで「Oracle E-Business Suite」として提供してきたオンプレミス型の業務アプリケーションを「Oracle Fusion Cloud」としてSaaSで提供している。「われわれは完全にクラウドへ軸足を移した」とKrishnan氏。

 顧客はサプライチェーン、カスタマーエンゲージなど、さまざまな面で変化へ迅速に対応する必要があり、オンプレミスの製品では市場の変化へ迅速に対応できないという課題を抱えている。

 そこでOracle Fusion Cloudは、モジュール設計とすることで柔軟に適用できるようにすると同時に、共通のデータモデルを持たせ、各種アプリケーションが統合作業なしに連携するようになった。これでエンドツーエンドのビジネスフローを作成でき、ビジネス上の価値を容易かつ迅速に引き出せるという。ITインフラでも「Oracle Cloud Infrastructure」を持つことから、Krishnan氏は「Oracleはインフラ、プラットフォーム、SaaS、業界アプリケーションを全て提供できる唯一の企業」と語る。

Oracle Fusion Cloudは共通データモデルを土台とする
Oracle Fusion Cloudは共通データモデルを土台とする

 同社の開発チームが、製品からサービスにマインドを切り替えたことで、「イノベーションの速度が高速になったこと」が最大の変化だという。「年4回ペースでイノベーションを届けている。世界で1万3000の顧客が全て最新機能を使っている」とKrishnan氏。クラウドサービスなので顧客は、セキュリティパッチなどに気を使う必要はないとする。

 最新機能の開発では、「Oracle Cloud Customer Connect」というフォーラムが重要な役割を果たしている。顧客とOracle Cloud開発チームが自由にアイディアをやりとりできるもので、実に新機能の80%がこのフォーラムから出てきたアイディアに基づくという。

 Krishnan氏は、最近の新機能の1つとして、Enterprise Performance Management(EPM:企業業績管理)の「Narrative Reporting」を紹介してくれた。OracleやOracle以外のデータソースにアクセスして報告書などを迅速に作成できるもので、例えば、決算報告書なら数週間を要した作業を数日に短縮できるという。加えて、これまで人間が介入していたコメントの抽出機能もあり、「特定の地区で売り上げがどのぐらい伸びている」といったコメントをシステムが自動で作成してくれる。この他にタッチレスオペレーション、会話インターフェース、継続的な予測などで機能強化が図られている。

 ビジネスモデルをサービス主導にシフトした結果は出ている。先述した最新の決算(2021会計年第4四半期)は、Fusion ERPの成長率が46%増で、前四半期(2021年第3四半期)の30%増を上回った。同期に26%増と成長したFusion HCMも、前四半期(同)の24%増に続く成長を記録した。

 Krishnan氏によると、典型的な導入パターンとしては、1つのサービスから始めて拡大する企業が多いという。「EPMを導入してコアERP(統合基幹業務システム)化したり、HCM(人材資源管理)からERPに拡大したり、ERPからSCM(調達・供給網管理)にも着手するなど、好きなところからクラウドを導入できる。これを可能にしているのは、共通のデータモデル。システム内で一度定義すれば共通のビューを得られる」(Krishnan氏)。これはSAPあるいはクラウド専業ベンダーと比較した際のOracleの大きな差別化だという。

 クラウドへの移行でOracleは、技術面と事業面の両方でサポートする。技術面ではEBS、PeopleSoft、J.D. Edwardsなどのオンプレミス製品からの移行で準備しているのが「Soar」という自動アップグレードプログラムだ。また、SAPの環境からOracle Cloud環境へのマイグレーションについても機能を用意しているという。事業面ではチェンジマネジメントを促進すべくコンシューマー級のユーザー体験として「Redwoodプロジェクト」を進めている。「情報をクリーンに表示し、直感的に操作できるため、トレーニングは最小限で済む」(Krishnan氏)という。

 パートナー側の取り組みも進めており、2万5000のパートナー企業がトレーニングや認定を受けているという。

 Krishnan氏は幾つかの事例を紹介した。その1つの英大手小売Tescoは、元々EBSの顧客だったが、クラウド移行に際してグローバルで単一のソリューションを実装した。9カ所に分散していた財務チームを単一のサービスセンターに統合し、オペレーションの報告を82%、銀行口座を42%それぞれ削減した。6000以上の店舗で働く45万人の従業員のプロセスを自動化するなど、4300万ドル規模のコストを削減したという。

 また、Fedexは欧州の同業であるTNTおよび物流委託のGENCOの買収に伴って、SAPなどバラバラだったシステムをOracle Fusion Cloudに統一した。「同社が事業ニーズに合わせられる柔軟性と拡張性を備えたシステムを必要としていた」(Krishnan氏)といい、Oracle Cloud ERPに標準化して2020年12月に63カ国で本番運用を開始した。その後も事業に支障を与えることなく、最新のアップデートを活用しているとのことだ。

Oracle オーストラリア・ニュージーランド地域のアプリケーション担当バイスプレジデントを務めるRussell Pike氏
Oracle オーストラリア・ニュージーランド地域のアプリケーション担当バイスプレジデントを務めるRussell Pike氏

 オーストラリア・ニュージーランド地域のアプリケーション担当バイスプレジデントを務めるRussell Pike氏は、カスタマーサクセスの取り組みについて触れ、「顧客がOracleのクラウド製品を継続的に使用してメリットを感じてもらい、成功につなげることは重要だ」と話す。顧客にカスタマーサクセス担当がおり、営業チームの報酬体系もこれに合わせているという。

 新型コロナウイルス感染症に関連して、ワクチンで重要になる温度管理では、IoTとブロックチェーン技術を組み合わせることにより廃棄率を改善するソリューションを提供しているという。「どのバッチが基準を満たしていなかったかをピンポイントで識別できるようになり、貴重なワクチンの廃棄を最小限に抑えることができる」とKrishnan氏。このソリューションはマレーシアなどで実用に入っているとのことだ。

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