本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEOの森田隆之氏と、日本オラクル 理事クラウド・アプリケーション事業統括CXクラウド事業本部 本部長の桑野祐一郎氏の発言を紹介する。
「新型コロナの影響で商談がストップしていた状態は解消されつつある」
(NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEOの森田隆之氏)
NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEOの森田隆之氏
NECは先頃、2021年度(2022年3月期)第1四半期(2021年4〜6月)の決算を発表した。森田氏の冒頭の発言はオンラインで開いたその発表会見の質疑応答で、新型コロナウイルスの感染拡大によるビジネスへの影響を問われて答えたものである。
NECの同四半期の連結業績は、売上収益(売上高に相当)が前年同期比10.9%増の6519億円、営業利益が前年同期から163億円増の105億円と、増収増益だった。森田氏はこの業績について、「業種によって違いはあるものの、全体の市況としては回復傾向にある」との見方を示し、質疑応答で新型コロナのビジネスへの影響を問われると、冒頭のように答えて一部の業種を除いて商談が動き出していることを明らかにした。
そうした今後の市場動向を探るために、筆者が特に注目したのが受注動向だ。表1がNECの各事業分野における四半期ごとの受注高の推移を示したものである。今回発表の四半期の数値は一番右側に記されており、その全体を見ると前年同期比2%減となっている。ただ、これについて森田氏は「大型案件の有無で変動が大きい海洋分野と、今回非連結分野となったディスプレイを除くと、前年同期比9%増になる」と、要するに受注も好調であることを示した。
表1:各事業分野における四半期ごとの受注高の推移(出典:NEC)
表1の各事業分野で好調ぶりが目立つのが、エンタープライズ分野の前年同期比17%増と、ネットワークサービス分野の同19%増だ。それぞれ好調の要因は、エンタープライズでは「企業のシステム投資が回復基調」、ネットワークサービスでは「5G(第5世代移動通信システム)基地局が拡大」が最大のポイントとのことだ。
では、業種別ではどうか。森田氏は次のような見方を示した。
「最も好調なのは金融分野だ。流通分野もコンビニエンスストアを中心に回復傾向が顕著になってきた。製造分野についてはゆっくりと回復基調にあり、現時点で前年度並みになってきており、私の感触ではフラットな状況から再び悪化することはないと見ている。さらに、中央官庁の需要も堅調に推移している」
ただ、続けてこうも述べた。
「一方で、新型コロナの影響が大きい運輸などの分野は厳しい状況が続いている。また、地方や中小企業という観点でも新型コロナの影響は深刻だ」
その上で、森田氏は「当社は全事業分野でビジネスを行っていることから、それぞれの事業の割合や状況を見極めながら、全体のビジネスとしてしっかりとマネジメントしていきたい」と語った。当たり前の話ではあるが、実際はそれがなかなか難しいのだろう。同氏の経営手腕に注目していきたい。