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富士通が社会課題の解決を目指す「Uvance」に注力する理由--高橋執行役員が力説

田中克己

2023-07-18 07:00

 「先端技術の活用案件をアクセンチュアらに取られている」――。富士通が成長分野に位置づけた「Fujitsu Uvance」などを担当する執行役員 SEVP グローバルビジネスソリューションの高橋美波氏はこのほど、同ソリューションに力を入れる背景を筆者に語った。同氏はソニーに約27年、日本マイクロソフトに約7年務め、2021年6月に富士通に入社した。国内に優良な顧客を多く抱え、高い信頼を持ちながらも、富士通のテクノロジーをうまく活用できないことに、大きな問題があると考え、社会課題を解決する標準サービスをクラウドで提供するUvanceに期待をかける。

 Uvanceは、サプライチェーン(供給網)や消費者体験などバーティカル(業種・業務)の4分野と、それらを支えるデータドリブン経営を実現する「Digital Shifts」、SAPやSalesforce、ServiceNow(同社は“3S”と呼ぶ)の「Business Applications」、高性能コンピューティングなどを活用する「Hybrid IT」のホリゾンタル(テクノロジー基盤)の3分野で計7分野を重点領域に設定し、サービスやオファリング(ITサービス)の品ぞろえを図っている。その数は現在、24種類になる(表参照)。

表1
表2

 品ぞろえの基本は、世界での市場規模と競合他社の参入状況などから判断する。例えば、二酸化炭素(CO2)の排出削減や食品廃棄、都市の安全性などサステナビリティートランスフォーメーション(SX)は、2025年に8兆円規模の市場になると期待し、経営と現場が議論しながらITサービスをそろえてきた。世界共通の課題であるのか、富士通のテクノロジーと親和性があるのかといった点も市場参入の基準にする。

 Uvanceの売り上げは、2022年度の2000億円から2025年度に7000億円を目指す。その15%に当たる約1000億円をSaaSが占める見込み。実は2022年度の売り上げの大半は、Business Applicationsが稼ぎ出している。しかも、「案件が潤沢にあり、確実にとれる」(高橋氏)とし、2025年度にホリゾンタルの売り上げを1000億円増の約3000億円にする。

 また、データの統合や分析に必要なデータサイエンティストを約70人そろえたり、3SをプラットフォームとするSaaSベンダーとのパートナーシップを推進したりしている。同氏によると、これは「導入した3Sを、うまく活用するためのコンサルティングやアフターサービス、マネージメントサービスを提供する」ためで、独SaaSベンダーであるGK Softwareの買収のようなケースもある。

 目下の課題は、2022年度に100億円程度のバーティカルの売り上げを、どのように4000億円程度に引き上げるのかだ。高橋氏は「国内の優良な顧客を数多く抱えていること」を、富士通の強みと理解する。ところが、そうしたユーザーから高い信頼を得ているにもかかわらず、先端技術の活用案件をアクセンチュアらに奪われるのは、外資系コンサルティング会社らがグローバルな知見やノウハウを持っているなど、幾つかの理由が考えられるという。

富士通 執行役員 SEVP グローバルビジネスソリューションの高橋美波氏
富士通 執行役員 SEVP グローバルビジネスソリューションの高橋美波氏

 ユーザー企業によるデジタル活用の進展もある。ある企業がデータサイエンティスト2000人を育成・確保したことなど、システムインテグレーター(SIer)を不要とする時代の到来を予感させる。だからこそ、「先端技術を学ぶなど、絶えずユーザーの先を行っていること」(高橋氏)が欠かせない。富士通ではテクノロジーだけでなく、課題を解決するITサービスの品ぞろえと、ユースケースなどのシナリオも用意する。ITサービスやユースケースには、富士通の保有技術や知的財産にとどまらず、他社のテクノロジーも組み合わせる。

 だが、こうした業種・業務のITサービスで、4000億円弱を上乗せするのは容易ではない。高橋氏も「チャレンジ」だと認め、「100%確実とは言い切れないが、新たなマーケットを創り上げられるか」にかかっていると話す。

 例えば、製造・物流・小売の業種横断でCO2排出削減に向けて、生産管理や需要予測などサプライチェーンの仕組みを構築し、商品の過剰生産を改める。現在、小売業がリードする形で配送ルートの最適化など、輸送の効率化を図るITサービスの開発を進めているところ。こうしてそろえた24種類のITサービスに機能を追加・強化していく。高橋氏は「数を増やすより、機能充実化を図っていく」とする。標準ITサービスとして利用者をどんどん増やしていくということだろう。

 富士通は、2025年度を最終年度とする新たな中期経営計画(中計)で、中核事業のテクノロジーソリューションを「サービスソリューション」と「ハードウェアソリューション」に分けて、サービスへの投資をより鮮明にした。

 サービスソリューションの売り上げは、2022年度の2兆円弱から2025年度に2兆4000億円と3年間で4000億円の増収を計画する。Uvanceで約5000億円を稼ぎ出す一方、既存のシステムインテグレーション事業が1000億円の減少と見ているようだが、標準ITサービスの出来次第でもっと落ち込むかもしれない。

 もう1つ気になったのは、高橋氏が中堅中小企業向けのITサービスを語らなかったこと。社長の時田隆仁氏も副社長の古田英範氏も新中計の発表会や投資家向け説明会で中堅中小企業について触れなかった。収益性の高い大企業に経営資源を集中させたいのなら、富士通の強みが弱まわらないかと心配する。それとも、用意した標準ITサービスが「中堅・中小企業のニーズにも十分応えられる」と考えているのだろうか。高橋氏の次の一手に注目する。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。

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