富士通は10月12日、同社における人的資本経営の取り組みについて説明会を開催し、執行役員EVP 最高人事責任者(CHRO)の平松浩樹氏が解説した。
富士通は2022年3月から、他社と共同で人的資本経営の実践について話し合うラウンドテーブル「CHRO Roundtable」を実施し、計6回の議論を行った。参加企業にはパナソニックホールディングス、丸紅、KDDI、オムロンが名を連ね、2023年4月には議論の成果を「CHRO Roundtable Report」として公開。同年7月には参加企業を変更し、2ndシーズンとして取り組みを進めている。
CHRO Roundtableでの議論を通して参加企業は、各社に共通するフレームワークとして「人的資本価値向上モデル」を作成(図1)。「企業理念・パーパスの策定」「エンゲージメントの向上」「人材の流動化」など持続的な効果を生む取り組みを赤色の枠、「人材ポートフォリオの作成」「必要な人材の要件定義」「人材の配置・獲得・評価」など成果を生む取り組みを青色の枠で囲んでいる。
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富士通は、自社の取り組みを同モデルに当てはめたという。平松氏は「それなりに一貫性を持って人事施策を設計していたつもりだったが、エンゲージメントの向上など人事が着手しやすい領域は手厚い施策を打っていた一方、人材ポートフォリオの作成などビジネスに直結するものに関しては手薄になっていた」と振り返る。
CHRO Roundtableでは、人的資本関連データと業績の相関関係も議論した(図2)。現時点で相関関係が一部見えてきたといい、例えば「ジョブポスティング(社内公募)/キャリア採用率」と「社内の業績」に正の相関が見られた。「先の人的資本価値向上モデルでは『人材の流動化が全体のキードライバーである』という仮説を立てており、その正当性を裏付けるデータだといえる。今後も継続して検証していきたい」と同氏。
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富士通は自社のパーパスや「Fujitsu HR Vision」の実現に向けて、ジョブ型人材マネジメントへの転換に取り組んでいる。この取り組みは(1)事業戦略に基づいた組織デザイン、(2)チャレンジを後押しするジョブ型報酬制度、(3)事業部門起点の人材リソースマネジメント、(4)自律的な学び/成長の支援――で構成されている。
平松氏は「それぞれの施策が関連していることを丁寧かつストーリー仕立てで説明しているため、大幅な制度改革に対しても社員は腹落ちしていると思っている。過去にも人事制度の見直しを行ってきたが、『一貫性がないと機能しない』ということを経験してきたので、その反省も踏まえている」と自負を見せる。
富士通 執行役員EVP CHROの平松浩樹氏
同社は、事業戦略に基づいて組織やポジションを設計する形に転換。まず「戦略とビジョン」を立案し、「戦略を実現する組織設計と人材」を考えた上で「現在の人材との隔たり」を把握する。
平松氏は「当社はこれまで新卒一括採用・長期雇用の文化を引きずっており、採用枠については人事が権限を持っていた。その結果、今いる人ありきで組織やポジションを設計し、その延長線上で戦略を考えることにつながっていたと反省している」とし、「適材適所ではなく“適所適材”の考えでは、人材面でギャップが大きくなるため、ポスティングや採用といった人材マネジメントの権限を事業部門に委譲し、人事は『HRビジネスパートナー』という役割で同部門をサポートする体制にした」と説明した。