海外コメンタリー

ウェブ誕生から35年、その生みの親は破綻したウェブを救えるか

Steven J. Vaughan-Nichols (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎

2024-03-15 06:30

 1989年のインターネットはすでに生まれてから何年も経っていたが、その姿は今とはまったく違うものだった。今日私たちが使っているインターネットが持つイメージや使われ方は、Tim Berners-Lee氏と、同氏が創造した「ワールドワイドウェブ」から大きな影響を受けている。ウェブの起源は、その元をたどれば35年前のBerners-Lee氏の論文、「Information Management: A Proposal」に行き着く。

Tim Berners-Lee氏
提供:Photo by Nicolas Liponne/NurPhoto via Getty Images

 Berners-Lee氏は世界を変えようとしていたわけではない。欧州原子核研究機構(CERNと呼ばれることが多い)の中で簡単に情報を共有する手段を作ろうとしたにすぎない。同氏が考案したのはインターネット上に分散したハイパーテキストシステムであり、これが現在ウェブと呼ばれているものになった。

 紙の上のアイデアから実用的なシステムになるまでには数年かかった。ウェブが本格的に稼働し始めたのは1993年のことだ。筆者が有名なウェブの紹介記事を書いた最初の人物になったときには、ウェブサーバーは2つしかなかった。

 筆者が1994年に著書「Inside the World Wide Web」を書いた頃には、インターネットが爆発的な人気を集めていた。技術者だけが使っていたものから、どこにでもある今日のウェブの基礎となっていったインターネットを、誰もが使いたがった。

 Berners-Lee氏はウェブが35周年を迎えるにあたり公開したメッセージの中で、「ウェブはコラボレーション(Collaboration)を可能にし、思いやり(Compassion)を育み、創造性(Creativity)を生み出すことを目指して作られた。私はこれを『3つのC』と呼んでいる。ウェブは人類に力を与えるツールになるはずだった。最初の10年間はその期待通りになり、ウェブは分散的で、コンテンツや選択肢のロングテールを持ち、小規模で局所的なコミュニティーを生み出し、個人のエンパワーメントを実現し、大きな価値を育むものだった」と述べている。

 しかしBerners-Lee氏は続けて、「この10年間のウェブは、それらの価値を体現するどころか、むしろそれらをむしばむのに一役買ってきた」とも書いている。同氏はその原因として、「ウェブが複数の企業の利己的な考えによって支配されていることによる機能不全」を挙げた。

 皆さんから見ても分かるはずだ。ウェブの黎明期には、インターネットの豊かな土壌で新しい企業が数多く生まれた。しかし今では、インターネットと株式市場の両方が、Meta(Facebook)、Amazon、Microsoft、Apple、Alphabet(Google)のいわゆる「MAMAA」によって支配されている。支配的企業が、古いFAANG(Facebook、Amazon、Apple、Netflix、Google)から、新しいFAANG(Facebook、Amazon、Apple、NVIDIA、Google)に変わったと言われることもある。略語はともかく、インターネット経済が小規模なスタートアップではなくこれらの大企業のものになっていることは明らかだ。

 Berners-Lee氏は、ウェブの30回目の誕生日に、ウェブが「公共広場、図書館、病院、商店、学校、デザインスタジオ、オフィス、映画館、銀行、その他もろもろ」になったと述べた。しかし同時に、「詐欺師のチャンスを広げ、憎しみを広げる人々に発言力を与え、あらゆる犯罪を容易にしている」とも指摘した。X(旧Twitter)、Reddit、Nextdoorなどのソーシャルネットワークを見れば、ウェブが持っている醜い一面を見て取ることができる。

 人工知能(AI)が普及してもその状況は改善されていない。実際、Berners-Lee氏は今回のメッセージの中で、AIはむしろ事態を悪化させたと考えており、「AIの急速な進歩がこうした問題を悪化させたことは、ウェブ上の問題がウェブだけのものではなく、さまざまな新技術と深く絡み合っていることを示している」と述べている。

ZDNET Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

ホワイトペーパー

新着

ランキング

  1. セキュリティ

    「デジタル・フォレンジック」から始まるセキュリティ災禍論--活用したいIT業界の防災マニュアル

  2. 運用管理

    「無線LANがつながらない」という問い合わせにAIで対応、トラブル解決の切り札とは

  3. 運用管理

    Oracle DatabaseのAzure移行時におけるポイント、移行前に確認しておきたい障害対策

  4. 運用管理

    Google Chrome ブラウザ がセキュリティを強化、ゼロトラスト移行で高まるブラウザの重要性

  5. ビジネスアプリケーション

    技術進化でさらに発展するデータサイエンス/アナリティクス、最新の6大トレンドを解説

ZDNET Japan クイックポール

マイナンバーカードの利用状況を教えてください

NEWSLETTERS

エンタープライズコンピューティングの最前線を配信

ZDNET Japanは、CIOとITマネージャーを対象に、ビジネス課題の解決とITを活用した新たな価値創造を支援します。
ITビジネス全般については、CNET Japanをご覧ください。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]