本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、IIJ 代表取締役 会長執行役員の鈴木幸一氏と、AWSジャパン サービス&テクノロジー事業統括本部 技術本部長の小林正人氏の「明言」を紹介する。
「ITは『いい加減』な人間が世界をリードしてきた」
(IIJ 代表取締役 会長執行役員の鈴木幸一氏)
IIJ 代表取締役 会長執行役員の鈴木幸一氏
インターネットイニシアティブ(IIJ)会長の鈴木幸一氏は、同社が4月1日に開催した入社式のあいさつでこう話した。といっても上記はそのままの発言ではなく、同氏の意を汲んで筆者がアレンジした言葉だが、真意とともにその前後も合わせて非常に印象深い内容だったので、エッセンスを紹介しながら上記の「明言」についてひもといていきたい。
鈴木氏は「入社、おめでとうございます」と述べ、次のように話し始めた。 「私は長い間ITの世界にいるが、この世界の大体の部分は『いい加減』な格好をしてきたような人たちが作ってきた。インターネットというのは非常に大きな技術革新だ。従来通りではなく、前の人がやってきたことを全て変えるような技術を作り、それによって社会や経済を変えていくのが、技術革新である。大きな技術革新こそが新しい産業を作るが、そういう産業を作ってきた人はどこかしら変わっている。従来と同じことをやらない人、普通の社会ではなかなか認められにくいような人が革新を担ってきた」
そして、「いい加減」について、次のような見解を示した。 「IIJを作った頃は、そういう『いい加減』な人が集まっていたが、ここまで会社が大きくなると『いい加減』な人だけじゃ会社がもたないということで、皆さんのような真面目な方々に入っていただくようになった。ただ、真面目なだけでは、新しい産業を作っていくにはちょっと力が弱いのではないかと心配になる」
「IIJはこの世界だと非常に古い会社だ。世界をリードするGAFAのような会社はみなIIJより遅くできた新しい会社だ。NVIDIAも時価総額は300兆円を超えている。日本にはそういう規模の会社は一つもない。なぜそうなったかというと、日本は製造業、すなわちものづくりで世界を席巻してきた。ものづくりは『いい加減』ではできない。きちっとしたものづくりをするにはきちっとした真面目な性格の人間でなくてはできない。一方、ITはどうかというと、GAFAの経営者で私がよく知っている人もいるが、かなり『いい加減』な人間だ。でも世界をリードできるような企業になっている」
冒頭に挙げた言葉は、この話の最後の部分から引用したものである。そして鈴木氏は、IIJと対比させながら、次のように話を続けた。 「IIJは米国で株式公開した。日本には類似企業がなかった時代から、ITをリードしてきた。ただ、日本国内だけでリードしていたので世界に遅れてしまった。日本のIT化は非常に遅れている。製造業でナンバーワンだったがゆえに、なかなか転換できなかった。変わった人間がやっているようなITのインダストリーに移れなかったのだ。それでもIIJは日本のITをリードしてきたのだから、これからもそれなりのスケールや影響力を世界に示していきたい」
その上で、最後に次のようなメッセージを送った。 「技術革新では技術もさることながら、あらゆるルール、気質、カルチャーが変わっていく。皆さんもIIJに入ったからには、自由に自分の個性を生かしながら働いてほしい。この先20~30年はまだまだ世界を変え続けるだろうという業界だ。そういう分野の企業に入ったのだから、ぜひ新しいカルチャーを作ってもらいたい。少しばかり外れるような自由な精神をもって頑張ってほしい」
筆者は鈴木氏の話を「いい加減のススメ」と読み取ったので、冒頭の言葉を明言として取り上げた。異なった読み取り方もあろうが、いずれにしてもIIJの新入社員だけでなく、IT業界に携わる全ての人の背中を押してくれるスピーチだったとの印象を強く抱いた次第である。