SAPジャパンが開催したプライベートイベントに、アマゾンウェブサービスジャパン(AWSジャパン)の幹部が登場し、SAPジャパン社長との対談で「両社の緊密ぶり」について強調した。そのやりとりが興味深かったので、今回はその内容を取り上げたい。
注目すべき両社の生成AIにおける連携
「SAPがなぜクラウドへの移行に注力しているか。この問いに対して最高経営責任者(CEO)のChristian Klein(クリスチャン・クライン)は『SAPのお客さまがビジネスを次のレベルに引き上げてイノベーションを推進していくために必要なスピードや俊敏性は、クラウドでこそ発揮することができるからだ』と述べている。SAPがそうしたクラウド環境をお客さまに提供していくためには、グローバルでも日本でもAWSとの連携が非常に重要になる」
SAPジャパン代表取締役社長の鈴木洋史氏は、同社が7月31日に都内ホテルで開催したプライベートイベント「SAP NOW Japan 2024」の基調講演で、AWSとの関係についてこう話した。これに対し、鈴木氏に招かれる形で同じステージに立ったAWSジャパン執行役員デジタルサービス事業統括本部長の佐藤有紀子氏は、次のように応じた(写真1)。
写真1:SAPのイベントで話すSAPジャパンの鈴木氏(左)とAWSジャパンの佐藤氏
「全く同じ考えだ。お客さまには(SAPのクラウドサービス群である)『RISE with SAP』を中心に据えて企業全体のイノベーションを促進していただけると考えている。重要なのは、迅速かつ継続してイノベーションを推進していけることだ。成功を収めているお客さまはそれが終わることのないジャーニーだということを理解している」
実は、こうした鈴木氏と佐藤氏のやりとりには伏線がある。AWSジャパンが2023年4月に開催したプライベートイベントの基調講演で、両者は今回と同様に対談し、緊密ぶりをアピールした経緯がある。その際、鈴木氏は「世界最大のクラウド基盤のテクノロジーを持つAWSと、世界最大のビジネスアプリケーションのテクノロジーを持つSAPが連携して果たす役割は非常に大きい」と述べ、両社の連携によるインパクトの大きさをアピールして見せた。
AWSジャパンのイベントでの両者のやりとりについては、2023年4月27日掲載の本連載記事「AWSのイベントに登壇したSAPジャパン社長は両社の関係について何を語ったか」をご覧いただくとして、以下では今回の両者のやりとりのエッセンスを紹介しておこう。
今回のイベントはSAPジャパンが2024年を「ビジネスAI元年」と位置付けていることから、ビジネスでのAI活用がメインテーマとなっていた。戦略ソリューションである「SAP Business AI」に関するイベントでの発信は関連記事をご覧いただくとして、鈴木氏と佐藤氏の対談でもAIが話題に上った。
佐藤氏はまずAWSの生成AIのスタックについて、第1層が「大規模言語モデル(LLM)と基盤モデルの学習と推論のためのインフラストラクチャー」、第2層が「LLMや基盤モデルを活用しアプリケーションを開発するためのツール」、第3層が「LLMや基盤モデルを活用するアプリケーション」といった3層構造からなることを説明した。
さらに、同氏はAWSとSAPの生成AIにおける連携として、図1に示すように3つの取り組みが進んでいることを説明した。中でも筆者が注目したのは、図の左側に記された取り組みだ。SAPのクラウド版統合基幹業務システム(ERP)の拡張機能における開発・実行環境である「SAP Business Technology Platform」(SAP BTP)環境から、AWSが提供する生成AIのフルマネージドサービス「Amazon Bedrock」の主要な基盤モデルにアクセスできるという内容だが、これはすなわち生成AIの活用において両社がPaaSレベルで密接に連携することを意味する。SAP BTPもAmazon Bedrockも両社にとってそれぞれ非常に重要な戦略サービスだけに、この取り組みがどれだけ広がるか注視したい。
図1:AWSとSAPの生成AIにおける連携(出典:「SAP NOW Japan 2024」基調講演)