いかに電磁波放射の影響を抑圧するかが課題
ところが、電力線は通信を目的として敷設されたものではないため、電力線をデータ通信の経路として利用するにはさまざまな問題がある。そのひとつが電力線が「不平衡線路」であることによる電磁波の放射である。
ほとんどの電力線では、2本の銅線の間で電気を流す性能が異なる不平衡線路になっており、2本の銅線で行きと戻りの電流の大きさが異なる分だけ、同じ方向に電流が流れることになる(これをコモンモード電流と呼ぶ)。そのため、電力線に高周波の電流を流すと周囲に磁界と電界が発生し、大きな電磁波が放射される。この電磁波が、同じ周波数帯を使っている船舶、航空無線やアマチュア無線など、他の無線通信などに悪影響を与えることが問題となる。
また、電力線の屋内配線はシールドが施されていないため、使用する高周波帯域では家電機器から発生する負荷ノイズや空中を伝播する飛来ノイズなどが電力線に重畳し、モデムに混入するという線路内ノイズの影響も問題になる。
こうした電界の漏えいを抑圧するために、変復調技術や受信感度改善などの通信方式の改善、トランスの平衡度改善やPLC用コモンモード対策回路の開発などによるPLCモデム平衡度の改善、屋内線路の平衡度向上や建物外壁による減衰などを考慮し、PLCの屋内での利用を限定するといった対策によって、高速電力線通信は実用化のめどを立てた。
紆余曲折を経て2006年11月に実用化へ
そもそも高速電力線通信が話題になり始めたのは、2001年3月に「e-Japan重点計画」(IT戦略本部)において「電力線搬送通信設備に使用する周波数帯域の拡大の検討」が提言され、翌年に総務省が「電力線搬送通信設備に関する研究会」を設置したことに端を発した。
ところが、研究会が電力線モデムを使って実際の家屋などで行った実験で、同じ周波数を使う航空管制や短波放送に対して有害な混信源となる漏えい電波が確認され、当時の技術レベルでは既存無線通信への妨害が避けられないと判断された。そのため、電力線インターネットの高速化へ向けた規制緩和は見送りとなっていた。
一度は“時期尚早”として規制緩和が見送られたものの、2003年には総務省がPLCの実用化に向けて、漏えい電波の低減技術開発を目的とする実験制度導入の検討を開始。翌年にはこの制度が開始され、メーカーや電力会社などがPLCの実証実験を開始した。
2004年6月に出された「e-Japan重点計画2004」においては、“家庭内の電力線の高速通信への活用”の中で“無線通信や放送等への影響について、実用上の問題がないことが確保されたものについて活用を推進する”という提言がなされた。
その後、「高速電力線搬送通信に関する研究会」の審議を経て、PLC機器からの漏えい電磁波が無線局などの受信性能を制限する周囲雑音以下となるよう、その発生要因であるコモンモード電流の許容値と測定方法を答申。2006年9月に電波監理審議会の「無線設備規則の一部を改正する省令案について適当である」という答申を受け、総務省は「原案どおり関係省令案等の改正及び制定を行う予定」と発表。PLCは、いよいよ解禁された。
こうした動きを受け、家庭用PLCアダプタが松下電器産業、アイ・オー・データ機器、NTT東日本などから発売された一方、ケイ・オプティコムなど電力系通信事業者6社が宅内に設置するPLCモデムの提供を視野に入れた実証実験を開始、あるいはKDDIが光ファイバを使った一戸建て住宅向けのインターネット接続サービス「ひかりoneホーム」に付加メニューとして、PLCモデムを利用した宅内LANサービスの提供を開始した。