ガバナンスの強化と高度にコントロールされたEUCの両立
ところで、これまでに実際にNotes/DominoからMOSSに移行したユーザーの動機や共通点について、昇塚氏は「ガバナンスの強化を目的にしているケースが多いのではないか」と分析する。
Notes/Domino時代に企業の中で出来上がってしまったガバナンスの利かないEUCの習慣を捨て、MOSSを導入することで、マネジメント側にアプリケーション配備の主導権を取り戻そうとする企業が多いという。もちろん、部門などで独自の業務アプリケーションを開発していくニーズはあるが、その際はSI業者を交え、長期的に使えるアプリケーションを吟味して作っていく形を理想としているという。
Notes/Dominoの功罪は、そのEUCにまつわる、当時としては画期的なコンセプトに由来するという評価は少なくない。アプリケーション開発の敷居を低めたことで、企業の情報化をボトムアップで促進してきた半面、EUCを無制限に行使することでアプリケーションが乱立し、ガバナンスが効かない状態になってしまった。定型業務の多くが基幹業務システムを使って効率化してきた中で、組織ごとに必要な非定型業務も数多く存在し、予算がとれないなどの理由から社内の「Notes使い」が独自にアプリケーション作って隙間を埋めてきたという経緯もある。
しかし、J-SOXの施行後はIT全般統制とIT業務処理統制が求められ、それら管理を受けなかったアプリケーションにも開発者と運用者を明確に分けて手順を文書化することや、アクセス管理や入力チェックを強化して不正を発生させない仕組みの構築が必要とされている。
MOSSでは、移植性の高いモジュール型の機能を組み込み、必要に応じて利用者が有効化/無効化を定義できる「フィーチャー」と呼ばれる機能によってアプリケーションを提供するため、高度にコントロールされたEUCが実現するという。
「利用者主導の思想も大切だが、権限を無制限に解放するのではなく、きちんとガバナンスを効かせることが重要。マイクロソフトプラットフォームの考え方の基本は、利用者の利便性と管理者の統制力を両立させることにある」(昇塚氏)
業界標準にも執心するマイクロソフト
では、マイクロソフトが考える今後10年を見越したコラボレーション基盤のあり方とはどのようなものだろうか。
現状より大きく変化していることは間違いないだろうという昇塚氏だが、「変わらず求められるのはエンドユーザー主導であることと、管理と利便性の両立。それに、変化に耐えられる拡張性の確保も重要な要素となる」と断言する。
ファイルフォーマットも、MOSS 2007からはOpen XMLを採用し、それが一つの布石だという。ファイルフォーマット自体が標準化されバージョンに依存せず使えるということ以外に、拡張性の部分でXML対応したことは非常に重要な意味があると昇塚氏は強調する。
一方、仮想化技術の進展によってインフラが大きく変わる可能性があるとし、前出の長谷川氏は、「ユーザーが選択に困らないよう、インフラベンダーとしては業界標準を常に意識して確実にフォローしていく」と明言する。
マイクロソフトの開発チームは他社とのコラボレーションにも注力し、例えばHP OpenViewでSystem Center製品を利用できるよう、コネクタなどで接続する仕組みを提供していくという。また、LinuxやUNIXで動くアプリケーションも管理したいという要望に対しても、今後「System Center Virtual Machine Manager 2008」をリリースし、SCOMについてクロス・プラットフォーム・エクステンションという形でインフラを提供していく予定だ。
いずれにせよ、コラボラティブアプリケーションの国内市場で3割近くを占め首位を堅持する同社は、今後もライバル追撃の手を緩めることはなさそうだ。