投資と経営、それぞれの会計情報
投資家の欲している情報は、投資判断をするために必要な情報である。国家の税収を得るためのものと違い、精緻さよりも、全体感の把握が優先される。投資判断を誤るような誤差があるのはいけないが、1円の誤差もなく完全な結果を出すために3カ月の決算期間を要するよりは、多少の誤差を容認してでも、1日でも早く入手したいという要請に基づくものである。
多少の誤差を容認しても即時性を求める。この特性が非常に重要である。基本的には、経営情報に対する経営者のニーズに極めて近いのである。
もう一つポイントがある。連結会計情報の最小単位が財務諸表であることだ。個別会計は事業活動を精緻に把握することを主眼としたため、事業活動の明細である仕訳という事業活動上の取引一つひとつを積み上げ財務諸表を作成するものである。
一方、連結会計では各社の財務諸表が情報の根幹をなす。企業に経営という機能が存在している以上、財務諸表の作成単位ごとに事業計画が存在する。事業計画の策定とは、未来を創る活動の第一歩である。過去の活動結果を見るだけでは変わりはないが、事業計画を創り、実績を早期に把握し、次のアクションへとつなげる活動のための会計ということになれば、経営のための会計となる。
連結会計と個別会計はその目的の違いから、基本的な整合性を担保しつつも、ある程度のギャップを容認する方向にある。日本の決算は、一度締まったものを修正することは原則容認していない。しかし、マネジメントアプローチなどIFRSベースの会計基準が取り込まれるにつれて、あくまで開示情報の有効性を担保するためとしての個別会計との整合性を不要とする遡及修正を容認するようにもなってきた。
連結会計とは、グローバル市場で資金調達を要する企業の「経営のための会計」なのである。
経営者は強くIFRSを意識すべし
ここまで、IFRSはグローバル標準の会計基準、そしてIFRSは連結会計中心の会計基準、連結会計は企業経営のための会計という話をしてきた。この関係を、企業経営者は強く認識してほしい。
IFRSの特徴の一つに「原則主義」がある。共通の基本方針は定めるが、細則は企業が自ら判断し決定してよいというものである。従来の会計基準の考え方からは、企業の負担が重くなるように感じるだろう。しかし、原則主義の本質は、経営判断に使っている情報を開示しやすくしたいという点にある。
現在も日本の会計基準はIFRS同等を目指し、コンバージェンスが進んでいる。しかし、これは会計基準の変更に過ぎない。最近言われる会計基準でのアドプション(適用)とは原則主義の導入である。つまり、企業経営者の意志次第で自らの経営判断を相当に反映できるようになる。
これまで、企業経営を支援する「管理会計」は、開示情報である「財務会計」とは別のものとして位置付けられてきた。商法も、税法も、金融商品取引法も経営者のための法律ではなく、そこにある会計基準も経営者のためのものではなかったからだ。
しかし、IFRSは経営情報の開示を求めるという点において、経営者のための会計基準としても機能する可能性がある。もちろんすべてが経営者の自由になるというわけではない。資産・負債アプローチと言われる、貸借対照表(B/S)中心の利益計算方法など、従来の価値観を変えて受け入れなければならないものである。
IFRSの基本理念そのものへの異論も当然あるだろう。しかし、デファクトスタンダードとなれば、これがグローバル経済社会のコモンセンスということになる。また、長期的視点の経営などを意識してきた経営者にとってはIFRSの理解を進めるにつれ、経営の原則に沿ったものであることに気づくだろう。なんといっても、IFRSは世界共通の会計基準を目指す“志の高い”会計基準なのである。

筆者紹介
森川徹治(MORIKAWA Tetsuji)
株式会社ディーバ代表取締役社長。1966年生まれ。1990年中央大学商学部卒。同年プライスウォーターハウスコンサルタント(現IBMビジネスコンサルティングサービス)入社、経営情報システムなど企業情報の活用に関わる多数のプロジェクトに関わる。1997年、株式会社ディーバを創業。以来、連結会計システムをはじめ企業の持続的な成長を支援するグローバル経営会計情報システムの創造と普及に取り組んでいる。