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グローバル社会では主体的に自立を確保せよ--米国のIFRSアドプションに潜む思惑 - (page 3)

森川徹治(ディーバ)

2009-08-19 08:00

人的財産をいかに育成すべきか

 次の重要分野は、「人財会計」と「知財会計」である。

 現在起きている一連の会計制度変更は、製造業中心の会計モデルから、金融業中心の会計モデルへの移行ととらえることができる。時価会計(公正価値会計)や包括利益会計は、経営者の責任を、生産を通して獲得する利益だけではなく、保有する財すべてに広げるものである。これを、グローバル社会のトレンドという視点で理解すると、グルーバル産業の重心が製造業から金融業へとシフトしたことを物語っている。

 さらに、最近のIFRSの動向を見ると、知的財産の積極的な認識をはじめ、知的財産を中心とした産業への新たなシフトへの意図が見え隠れする。しかし、知的財産を中心とする産業において肝心の人的財産に対する認識についてはほとんど議論が進んでいない。

 人的財産の認識は、倫理的な問題も含めていくつもの壁があるのは事実である。しかし、事業活動の付加価値を創造する源泉である人的財産を、人員数と人件費という視点だけでなく、人的資本としても認識し、一人ひとりの事業貢献価値を高める経営視点を持つことは、グローバル社会で知財を基本とする産業の競争力を確保する上で欠かせないだろう。

 グローバルベースでの人的資源(人財が事業活動に貢献する以前の状態)は増加の一途を辿っている。しかし、日本では、人口はすでに減少傾向にある。このような現状において、人的財産の開発、育成は非常に重要なテーマとなる。

 地球の人口許容能力がどれほどあるのかわからないが、経済の成熟度と人口増加率の低減が相関関係を持っているように、経済力を持つ国ほど人的資源の問題は大きい。不足する労働力を海外に求める方法もあるが、それだけではなく、より真剣に付加価値を創造する人財の育成に取り組まなければならない。

 人的財産の開発、育成は、組織的取り組みと個人の主体的取り組みが対等に行われることが重要だろう。よって、価値の測定についても、一方的に行うものではなく、個人の主体的参加によって行われるべきと考える。

 一方で、コモンセンスとしての公正価値を見出すためには、金融商品の公正価値が市場による取引価格を基本としていることを参考に、市場価値というものも要素として取り入れる考えもあろう。市場が流動性を高めるシステムとすると、人財の流動性を高めるものとなるが、高い流動性は雇用を不安定にするリスクを抱えることとなる。

 よって完全なる自由放任ではなく、流動性と社会的安定の両面を確保するための、公的人財市場を創設し、これまで企業の内部に閉じ込められてきた人的財産の評価をより公的なもとのすることで、人的財産の認識方法としては従来以上に透明性を持つものとなる。現実には、プライバシー問題や企業の人件費管理の観点など導入は非現実的であるが、人的財産を育成するための議論の一つにはなる。

 人的財産を認識し、積極的に価値の向上に取り組むには、企業の事業資産に対する意識変革も必要だ。現在の事業資産は会社の所有が法的に認められているものを基本としている。しかし、人的資産は企業をはじめ、特定の組織の所有を許すものではない。むしろ、資本金と同様に、出資という観点が適切である。自己資本もあくまで預託されたものであり、会社の私物ではないという考えと同様に、人的資源は、事業活動に出資された自己資本と認識し、それを元に創出される価値の源泉を知的資産として価値認識と運営に取り組むことが求められる。

公会計もグローバル水準に

 ここまで、企業経営にかかわる会計について言及してきたが、企業が納税責任を負うパブリックセクターと呼ばれる国や自治体に対する会計基盤の整備も大変重要な課題と考える。企業の活動はパブリックセクターの活動と密接に関係している。

 連結経営でたとえるなら、ホールディングカンパニーと子会社の関係である。もちろん、一部の特殊な例を除けば、株式による資本関係を前提とするものではない。収益の一部を税として納めるという視点では、持ち分と配当性向を同一とした持分法会社に似た認識となる。

 連結経営において、事業資産の再配分が重要な役割であるとした。しかし、現在のパブリックセクターにおいては、経営に資するだけの財務諸表が作成されているとは言い難い。バランスシートの作成なども進められているが、根本にある会計の考え方が、企業会計と異なり、単式簿記、現金主義会計という、いわゆる家計簿に近い方法のままであることから、資産認識やその活用という観点も、一部の先進的な事例を除けば、実際に経営しているレベルにはない。

 アカウンタビリティ(説明責任)とスチュワードシップ(受託責任)という2つの財務会計上の基本となる経営責任についても、IFRSの導入検討を通して再認識が進んでいるが、特にスチュワードシップについては、預かっている資産の運営責任を問うものであり、その影響力と社会に与えるインパクトを考えると、企業もさることながら、パブリックセクターでの認識と実践は急務と考える。

 事業の持続的発展において、個々の事業活動の単なる集合としてではなく、全体最適の観点から、将来を見据えた事業資産の配分を適切に行うことの意義があるように、パブリックセクター自ら連結経営的視点をもって、経営を行うことの意義は大きいだろう。併せてアカウンタビリティによる透明性という牽制機能を背景とした長期的視点をもって、事業資産の再配分が持続的に行われるようになると、実業とパブリックセクターの協働は今より推進されるだろう。

 連結経営において、グループ企業の会計基準の統一、迅速な連結決算と連結経営PDCAサイクルの定着が重要であるように、パブリックセクターも企業会計と遜色ないレベルの連結経営PDCAサイクルの導入定着を積極的に進めることで、パブリックセクターの経営品質をグローバル水準へ高める一助となるのではないかと考える。

盲目的な追従は危険

 IFRSのアドプションや環境問題だけでも、現在の社会的流れが事業活動において妥当な意志決定であるのかと疑問が残る。ほかにも、グローバル経営におけるガバナンスのあり方(今回は割愛した)や人的資産の認識と測定をはじめ、企業経営を取り巻くさまざまな課題がある。

 そういった中、グローバル経済社会で生きてゆくためには、さまざまな利害関係の渦に流されないこと。つまり、一つひとつの意志決定に明確な自己責任を持って望むことが欠かせないと感じる。日本企業にとってのグローバル化とは、あらゆる意志決定に対して自ら明確な説明責任を果たし、自らの意志をもって行動する行動習慣を体得することであるように思える。

筆者紹介

森川徹治(MORIKAWA Tetsuji)

株式会社ディーバ代表取締役社長。1966年生まれ。1990年中央大学商学部卒。同年プライスウォーターハウスコンサルタント(現IBMビジネスコンサルティングサービス)入社、経営情報システムなど企業情報の活用に関わる多数のプロジェクトに関わる。1997年、株式会社ディーバを創業。以来、連結会計システムをはじめ企業の持続的な成長を支援するグローバル経営会計情報システムの創造と普及に取り組んでいる。

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