しばしば「正しい意思決定が行えるよう、組織の現在のありのままの姿を『見える化』すべきだ」といった議論がある。
ただ、意思決定を支援するためには、現状の見える化を実現するだけではなく、計画した業務改善やコストダウンを実行した場合に、どれだけの収益改善、あるいはコスト削減につながるかという、具体的な金額を示すことも重要だ。それができなければ、経営者を納得させることは難しいだろう。
見える化に加え、そこから見つけ出した課題の原因を分析し、この先どうなるかの予測を行い、最善で最適な対策を導き出せないか……。そんなアプローチで「見える」の先にある「知る」「予測する」といった意思決定プロセスを支援するのが、Business Analyticsを得意とするSAS Institute(SAS)である。
同社執行役員の宮田靖氏は、こうした取り組みの中で「改めて“見える化”も重要だと感じた」と話す。その理由は、今回の経済危機において、グローバル製造業で多大な在庫が発生したが、その原因が「実は見える化のレベルが十分ではなかったからではないか」と考えているからだ。
グローバル製造業の場合、海外の販社、特に資本関係のない販社を含めて、在庫状況や販売状況を把握しておく必要がある。どこまで正確に把握できるかによって、見える化のレベルは決まってくる。
同氏は「はたしてグローバルな見える化がどこまで進んでいたのか。そして、見える化をベースにどれだけの予測を立てられたのか。もしかすると先進的な手法による予測は行われていなかったのではないか」と指摘する。
グローバル製造業は、急激な需要の減少を想定しておらず、「平常時の需要変動モデルしか持っていなかったのかもしれない」と同氏。こうした事態を受けて、すでに「見える化の見直し」を含めた取り組みに着手した企業も出てきているそうだ。今回の経験は、グローバル製造業にとっても、SASにとっても学ぶべきことは少なくなかったようだ。
経営課題を解決する「見る、知る、予測する」とは
さて、SASの戦略支援ツールは、データの統合、データの分析、さらに予測によって、活動計画の最適化を支援する。従来のBIツールと比較すると、図のような特徴を持つ。
SASでは、「見る」「知る」「予測する」の3つを合わせて「予見力」と表現している。顧客が抱える複雑な経営課題を、予見力によって解決するという。具体的には、どんな経営課題を解決できるのか。この問いに対して、宮田氏が示したのが下のような図だ。
この中で、例えば「サプライチェーン」の領域に注目した場合、それぞれのプロセスに適したソリューションがある。調達のプロセスでは、財務的な視点を含めてサプライヤーを選別する「Supplier Risk Management」があり、製造プロセスにおいては、製造装置の故障を予見する「Predictive Asset Management」がある。この故障の予見は、装置産業のニーズが高いソリューションだ。センサによって収集されたデータを基に、故障発生前の状態をモデル化し、このモデルを用いて故障の発生を予見する。
在庫最適化のプロセスにおいては、リードタイムやコストなどの制約条件がある中で、サービス率を最大化しつつ、いかに在庫を最適に配置できるかが求められる。ここにはOR(Operations Research) の手法を用いた「Inventory Optimization」がある。
ところで、ERPパッケージのSCMにも「安全在庫」の機能を備えているものがある。これらは、同じような機能なのだろうか。
SAS、ビジネス開発本部ビジネス開発部長である山下克之氏は「ERPの場合、人が安全在庫を判断して、静的にマスタのデータとして登録する。Inventory Optimizationはダイナミックに在庫を最適化する」と説明する。SASのソリューションが自動的に最適な在庫を導出するようだ。
この他、販売のプロセスでは、高い精度の需要予測を行う「Demand-Driven Forecasting」や、アフターサービスのプロセスにおいては、サービス部品の最適化やワランティコストを下げる「Warranty Assurance」などがある。
では、こうした分析や予測ソリューションは、実際にどのように活用されているのだろうか。