一方、コンピテンシーは、David C. McClellandの研究成果によって一躍有名になった概念である。McClellandは、調査対象であるハイパフォーマー(高業績者)たちの「特性」のことをコンピテンシーと呼んだ。人事における「適正」や「パーソナリティ」といった一般的な評価指標とは異なり、具体的に成果につながる思考や行動に注目して、その特性を整理して見せたのである。
その後、Richard E. Boyatzisが、6つのクラスタ、21のコンピテンシーからなる「コンピテンシーモデル」を発表し注目を集めた。さらには、Lyle M. SpencerとSigne M. Spencer夫妻により、コンピテンシーの強弱を測る尺度つきの「コンピテンシーディクショナリ」が発表されると、たちまち認知され、特に米国企業の人事部門においては、たいへんなブームを巻き起こしたのである。
コンピテンシーの大ブームはすぐに消滅
なぜコンピテンシーのブームは起こったのか。米国においては、従来の職務主義(職務記述書による明瞭で公平な管理を意味する。定義があやふやだと差別を疑われる可能性がある)に代わる人事管理基準を求めていたからだ。特にナレッジワーカーが多く、個々の社員の付加価値が大きい企業においては、いちいち職務を記述したとしても、環境変化のスピードに対応して職務内容は目まぐるしく変わるため、業務を記述したとしても意味をなさないからだった。
そこで、そうした企業が個人の能力を科学的に分析、評価できるコンピテンシーに飛びついた。職務主義に換わる新しい管理基準としてのコンピテンシーに期待したのである。ところが、人事におけるコンピテンシーは数年で下火になってしまった。
管理基準としてのコンピテンシーに対するネガティブな意見としては、例えば次のようなものだ。
同様の職務をする同業他社のモデルを、スキルスタンダードのように適用しても、環境や企業文化が異なるため意味がない。そこで自社独自にコンピテンシーモデルを作ろうとしても、気の遠くなるようなコスト、そして時間がかかってしまう。完成した頃には環境が変わっていて使い物にならないというわけだ。