グローバリゼーションと巨大化
グローバリゼーションとソフトウェア企業の巨大化がほぼ軌を一にして進んだことも興味深い。世界が均質化の度合いを進めていていく中で、ビジネスプロセスのグローバルな連携や均質化が求められるようになり、ソフトウェアをグローバルに展開する資本力が、ソフトウェア企業の側にも求められるようになったのも事実である。
ERP、データベース(DB)、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールなど、どのようなビジネスを行うにも必要とされるものは、ローカルに個別企業が開発・提供するのではなく、グローバル展開が可能なビジネス基盤と資本力を持った巨大ソフトウェア企業に担わせるというのは合理的である。
しかし、リーマンショック以降、グローバリゼーションを誰もが事実として受け止めるようになった一方、それを必ずしも歓迎しない風潮が強まったのも事実である。つまり、世界規模での効率化が進展し、それに伴って巨大資本に利益が集中していく構造に対しての疑問が呈されているのである。
オラクルに対する顧客の反撃
記事では、SaveMartとNTTが、オープンソースDBへの移行を進めることで、Oracleへのロックインからの脱却、そしてコスト削減を目論んでいることが紹介されている。とはいえ、Oracleが買収しようとしているSunこそが、まさにオープンソース戦略を推進していたことは大いなる皮肉である。
また、記事は一方で、ソフトウェア企業の巨大化に対抗するには、顧客自身がもっとリスクを取るように判断基準を変える必要があることを指摘している。
...corporate customers that feel squeezed by the giants may have to change their behavior if they really want more choice in the market.
つまり、まだ信頼性の低い弱小プレーヤーとの取引を増やしていく努力が必要であるということである。
また、クラウドコンピューティングにより、ソフトウェアのディストリビューションアーキテクチャが変わることにより、中小プレーヤーの活躍の余地が広がることも指摘されている。クラウドコンピューティングは、大手ベンダーによる、さらなる寡占のツールとしてではなく、新規参入者によるイノベーションのプラットフォームとして育てていくことが重要であろう。
ソフトウェア産業が健全であり続けるためには、自ら適切な競争環境を醸成していくことが重要である。そのためには、新規参入へのハードルが高すぎてはいけないし、イノベーションが起きやすい環境が用意されなくてはならない。産業としての魅力を高めるためには、そうした変化が顧客からの圧力や反撃の結果として行われるのではなく、ソフトウェア産業自らが革新していく姿勢が必要である。
筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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