アップルの過剰な節税を嘆く地元民

三国大洋 2012年05月02日 18時37分

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 前回は「ハイパー節税策の先駆者 アップル」と題し、New York Timesが掲載した「iECONOMY」シリーズの第三弾を紹介した。

 この記事では、アップルを非常に高度で専門的な税金対策の先駆者として描いている。また、こうした過剰な節税策はアップルに固有のものではなく、多くの多国籍企業も同様の手法で節税を行っていることを説明した。

 そこからは、特定の企業の行いがどうこうというレベルを超え、グローバル化とデジタル化が進んだ結果、もはや税金や制度の設計、ひいては主権国家そのものが後手に回っている姿が見え隠れする。

 今回はアップルの節税策のより詳しい実態を解説しながら、これまで何度も取り上げた「Repatriation Tax Holiday」の解説を進めたい。

意外な会社との取引

 iECONOMYの記事でちょっと興味深かったのは、iTunesでの楽曲やアプリ(ダウンロードコンテンツ)の売上処理だ。これらの少なくない部分が、たとえばルクセンブルグにある「iTunes S.a r.l」という法人で計上されていたりするという。たとえコンテンツを含んだサーバがノースカロライナのデータセンターにあったとしても、である。

 このルクセンブルグ法人の売上は2011年に10億ドルを超え、iTunesの全世界での売上のほぼ2割に達しているという。ロバート・ハッタという元アップル社員はこの件について、「ルクセンブルク法人で売上を計上するようにしたのは税制面で有利だったから」「ダウンロード販売はトラクターや鉄製品と違う——コンピュータ(サーバ)がフランスにあろうが英国にあろうが、ルクセンブルグ(の会社)から買っていれば、それはルクセンブルグとの取引ということになる」とコメントしている。

 また、かなり以前から行われているやり方は、海外各国のディストリビューターをコミッション制の販売代行者("commisionairies")とすることで、法人税の高い国々——たとえばドイツでの節税対策を行うというもの。これだと、ドイツのオペレーションはもっと税率の低いシンガポール法人の販売代行者となり、在庫を持たずに済むため、課税されずに済むという……以前、アップルのオンラインストアで注文した商品がシンガポールから送られてきていた時期があったが、いまでもそうなのだろうか?

米国内での節税対策と、しわ寄せをうける地元コミュニティ

 アップルは4月24日に発表した1〜3月期決算では、日本での売上が26億4500万ドル($2645 million)と前年同期の13億8300万ドルから9割近くも増えていた。もし、フランスのサルコジ大統領が口にしていたような「売上への課税」みたいなものが導入されたら、相当な金額になる可能性も高いが、これはあくまで机上の空論(少なくとも現時点では)なのでひとまず脇に置くことにする。

Apple 2012Q2 10-Q
Apple 2012Q2 10-Q」より抜粋
※クリックで拡大画像を表示

 アップルのハイパー節税策は海外に限ったことではなく、米国内でも法人税やキャピタルゲイン税がかからないネバダ州に登記した法人に利益を付け替えることで、カリフォルニアやフロリダなどでの税金を節税しているとある(なおカリフォルニア州の法人税は8.84%)。

 ところで。

 この特集記事を書きつづけているチャールズ・ダヒッグという書き手が「うまいなぁ」と思わせるのは、「政府と企業とのせめぎ合い」という構図のなかに、そっと「弱者」の存在を挿入してくるところにある。そうして記事の読み手の同情をそれとなく誘うところが「うまい」のだ(立ち場によっては、そういう「情に訴えかける」部分が危うく感じられるかもしれない)。

 この税金の話でも、大企業による節税のしわ寄せを受ける立ち場の人物を取材してコメントをとっているのだが、その相手というのがスティーブ・ウォズニアックもかつて通ったという地元のコミュニティカレッジ、デアンザ・カレッジ(De Anza College)の学長である。

 州や自治体の財政悪化から、米国では公立学校の予算がどんどん削られるという話はテレビのニュースなどでも時々流されたりするが、アップルのお膝元にある学校も例に漏れず、存亡の危機に瀕しているという。デアンザ・カレッジの学長を務めるブライアン・マーフィー氏は「アップルの社員ならだれもが当校とつながりを持っているのは間違いないと思う。彼らの子供は我が校のプールに泳ぎに来ている。いとこたちが当校の授業を受けている従業員もいる。彼らが毎日当校の脇を通っている。それなのに、アップルは税金を減らせることならどんなことでもしている」とコメントしている(註12)。

 ただし、カリフォルニア州政府の財政危機については、ジェリー・ブラウン知事率いる民主党政府の下でひどく杜撰な運営が行われた結果、「重税に耐えきれなくなった中流層がどんどんいなくなり、残っているのはシリコンバレーなどにいる億万長者と、動かないほうが得をする貧困層だけ」といった批判の記事が、対立陣営に与するとみられるWall Street Journal(WSJ)に出て話題を呼んだばかり(註13)。

 そのため、カリフォルニア州の財政危機——そこから生じたコミュニティ・カレッジ存亡の危機の原因を、税金を払いたがらないハイテク企業に押しつけるのもちょっと疑わしい部分があるように思える。ただし、そのいっぽうで、アップル、シスコ、オラクル、インテルなどの働きかけで2009年に成立した法人減税により、年間15億ドルもの潜在的税収が得られなくなったという推定も引用されているので、少なくともそうした働きかけの動きがあったことは事実だろう。(次ページ「いったい誰のための税制優遇なのか」)

註12:税金を減らせるなら、どんなことでもしている

"I just don't understand it," he said in an interview. "I'll bet every person at Apple has a connection to De Anza. Their kids swim in our pool. Their cousins take classes here. They drive past it every day, for Pete's sake.

"But then they do everything they can to pay as few taxes as possible."


註13:カリフォルニア州の財政危機

Joel Kotkin: The Great California Exodus

この記事には「カリフォルニア州住民の約40%が所得税を払っていない」「ほかの州とは違い、シリコンバレ——ベイエリアでは年間所得が25万ドルあっても、家族をもち、子供をきちんとした学校に通わせるのは厳しい」「ツイッターやアドビ、イーベイ、オラクルなどが、ソルトレークシティにオペレーションの一部を移している」といった記述もみられる。

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