同時に発表していたSaaS型のビジネスアプリケーション群「Business ByDesign」対応については「半分がHANAで動いている」と報告した。その次のステップとなる主力製品のビジネスアプリケーション群「Business Suite」については、「動いている」としながらも、シングルセレクト型であるOLAPが物理的制約を超えられないことなどの課題を挙げた。「コードに変更を加える必要がある」(Platter氏)
同時に「DB2やOracleなどを利用している99%の顧客を見捨てることはできない」と説明する。Plattner氏は「あなた方の助けが必要だ」と述べ、サポートのために必要な機能調整などについてユーザー企業と対話しながら開発していく姿勢を見せた。
この日、Business Warehouse対応が一般提供となったほか、「SAP Planning and Consolidation」「SAP Sales and Operations Planning」など8種類のソリューションがHANAに対応したことも発表した。
同じく分析分野では、HANAに対応したビジネスユーザー向けビジネスインテリジェンス(BI)ツール「SAP Visual Intelligence」を発表した。BIツール「SAP BusinessObjects Explorer」のデスクトップ版で、直感的なインターフェースとHANAのパフォーマンスを特徴とする。
Business Warehouseは1万6000社が利用する製品であり、同製品のHANA対応は今後の同社のデータベース参入戦略で非常に重要なステップとなる。現在Business Warehouseの顧客はOracleやIBMなどのデータベースを利用しているからだ。
経過は順調のようだ。2011年11月にランプアップとなったが、Sikka氏は「SAP史上最も成功したランプアップになった」と胸を張る。いくつかの導入事例が紹介されたが、その1社である建築向け技術企業のHiltiでは30Tバイトのデータを動かしているという。
ビデオメッセージでHiltiの担当者は、導入決定の背景として「(1)レポーティング速度の改善、(2)Business Warehouseアーキテクチャの簡素化、(3)これまでにはない新しいシナリオの実装――の3つの目標があった」と明かし、(1)では速度が1000倍改善したこと、(2)ではミドルウェア簡素化によりメンテナンスコストを削減できた、と報告した。

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開発者、開発者、開発者
SAPは会期中、サードパーティや開発者向けにも多数の発表を行っている。
HANAでは、Amazon Web Services上で提供するHANA開発者インスタンスを無料とすることが発表された。HANAのパワーを活用する全く新しいアプリケーションの登場は、ベンチャー企業など既存のSAP開発者以外からの力が必要だ。Sikka氏が「無料のクリックスルーライセンス」と述べると、会場からは拍手が起こった。
クラウドでは、「NetWeaver Cloud」を発表した。オンプレミス、SuccessFactorsなどのクラウドアプリケーション向けに拡張サービスを実装できるプラットフォームとなる。モバイルでは、サンドボックス機能を提供する計画を明らかにした。

合計で3時間にも及ぶPlatter氏とSikka氏の基調講演中、何度かOracleに対するコメントもあった。OracleがHANAと自社製品「Oracle Exalytics」を比較するウェブセミナーで提供した情報が「間違い」であり、「FUD(Fear, Uncertainty and Doubt)」と見るからだ。
Platter氏はたとえば、OLAPとOLTPの共存などウェブセミナーで伝えられた情報を正すかのようにHANAを説明した後、「親愛なる競合へ、われわれはいくらでも戦い、議論できる。だが、知らないし知りたくないシステムについて予言するのはやめてほしい」と述べた。
今年のSAPPHIREはいつになく地球規模の視点で語られることが多かったが、Sikka氏もHANAには世界を変えるパワーが潜むと強調する。たとえばインドでは銀行口座を持つ人が人口の2割程度で8億人が銀行口座を持っていないという。この人たちが共通して持っているのが携帯電話だ。携帯電話が口座代わりになるようなアイディアは以前からあるが、収益性が低いこと、規模が大きく初期コストが高いことなどから、なかなか実現が難しい。
こうしたこともHANAなら可能になるとSikka氏が説明する。「過去に制限されることはない。将来は過去の積み重ねではなく、新しく作ることもできる」(Sikka氏)と呼びかけ、インメモリベースの新しいエンタープライズへの移行を呼びかけた。