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仏テレコム市場を破壊する異端児 - (page 2)

三国大洋

2012-08-08 15:09

第4の携帯電話サービス - フリー

 さて、ここでいったんカンザス(米国)を離れて、大西洋の反対側、フランスの携帯電話市場に目を移してみる。

 それでなくても「深刻な経済危機でEU全体が大変」という中で、フランスでは今年初めからイリアドというISP事業者がフリー(Free)という「第4の携帯電話サービス」を立ち上げ、業界が衝撃を受けているという。

 イリアドの「フリー」は、WirelessWire Newsで今年4月に比較的詳しく紹介したことがある。

(1)フランス携帯通信業界を騒がすフリーの「価格破壊」(編集担当メモ)
(2)フランスのフリー、400万カ所のWi-Fiホットスポットを利用可能に

 フリーのサービスは、何といっても低価格が売り物だ。「最低価格は2ユーロ(60分の無料通話付き)」「月額20ユーロで通話、メッセージ、データ通信とも使い放題」などというのが受けて、1月のサービス開始から80日間で260万人の加入者を集めたという(註7)。

 WirelessWire Newsの(1)の記事にあるように、このイリアド=フリーの武器は、かつてバブル崩壊後に安値で買い集めたダークファイバー網と500万人の加入者に配布したSTBの2つ。それにフランステレコムの3G回線を組み合わせる形で、この低価格を実現している。

 フランステレコムでは、自ら展開するオレンジブランド(仏携帯通信市場1位)のサービス加入者が、フリーのサービスが始まった第1四半期に61万5000人も減少した(ただし4〜6月の第2四半期には15万5000人まで流出数が減った)(註8)。

 一方、フリーとのローミング契約で多少なりともお金が入るフランステレコムと異なり、加入者を奪われるばかりの下位事業者は面白くない。2位のSFR(ビベンディ傘下)は、業績不振に加えて全体の戦略に関する食い違いなどもあってCEOが解任された。また、3位のヴォイグテレコムでも人員削減に追い込まれている。

 今、問題になっているのは、主に3番目の点——フリーに力を貸したフランステレコムとのローミング契約で、他の既存事業者からすると「それなりの投資をして自前で携帯通信網を作ると言っておきながら、実態はフランステレコムのネットワークを借りてるだけじゃないか」「きちんと投資してきたオレたちには、あんな安売りはできない(だから不公平な競争を強いられている)」「フリーがきちんと投資しないなら、雇用も生み出せないどころか、オレたちはさらに人員削減しなくちゃならなくなる」といったあたりだ。7月初めにはヴォイグのCEOがフランス議会に対して「イリアド=フリーとフランステレコムのローミング契約(2018年まで)の延長を認めるな」「4G回線についてはイリアド=フリーにローミング契約を認めるな」とする嘆願書が出されたという(註9)。

 一方、イリアド=フリー側はSFRが「端末販売の割引(補助金)を使って加入者を長期契約に囲い込むのは、公正な競争を妨げるもの」とする訴えを5月に裁判所に提出していたと報じられた(註10)

 フリーのサービス展開に話を戻すと、固定線の加入者に配ったWi-Fi付きSTBを利用して、4月下旬にいきなり400万カ所のWi-Fiホットスポットをローンチしたという話が伝えられていた。日本でWi-Fiオフロードというと、ソフトバンクやauといった携帯通信事業者がもっぱら「3G回線の負荷低減のためにやっている施策」という印象がある。だが、このイリアド=フリーのニュースを読んでいると、「主従逆転」というか、最初から「Wi-Fiありき(携帯通信網は補助)のワイヤレスサービス」をイメージしている、という感じが強く伝わってくる。ざっくりとした喩えでいうと、ソフトバンクがボーダフォンの事業を買収せず、代わりにYahoo! BBのWi-Fiアクセスポイントを基盤に無線通信事業者を始めてしまった、という感じだろうか。

 無論、自動車や電車での移動中にも「きちんとネットワークにつながる」という恵まれた環境に慣れた日本の携帯サービス利用者からすれば、「そんなもの、はたして使い物になるのか?」という疑問が出てきてもおかしくはない。だが同時に、たとえばSkypeのようなIPベースのサービスがかなり普及し、アップルのFaceTimeのようなサービスも登場し、さらにテレフォニカ(欧州と中南米で展開する大手携帯通信事業者)のような既存の事業者までOSの違いを超えて使えるVoIP/メッセージングアプリを出すような状況になってもいる。つまり、ユーザーがよく利用しそうなサービスの主体がネットベースのアプリに移ってきたことで、「携帯通信網経由だろうが、Wi-Fi経由だろうが、ネットにきちんとつながるならそれで十分」とする価値観がユーザー側で生まれ、サービス提供者側がそれに応える選択肢を準備してくるのも自然な流れに思える(註11、12)。

 Google Fiberを発端にしたこの話、なかなか先に進んでいかないが、考える材料として挙げておくべき事柄はまだたくさん残っている。もうしばらくお付き合い願えれば幸いである。

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註7:サービス開始から80日間で260万人の加入者

Iliad gained 2.6 million mobile subscribers in the first 80 days since it became France's fourth mobile-network operator this year, offering discounted packages starting at 2 euros ($2.46) to make inroads into the market.

Iliad's Free Sues Vivendi's SFR On Subsidized Mobile Phones - Bloomberg


註8:フランステレコムの加入者が61万5000人も減少

It lost 155,000 customers in the second quarter compared with 615,000 in the first, while revenue erosion remained stable at around 2 percent.

France Telecom Revenue Exceeds Estimates Amid Iliad Rivalry - Bloomberg


註9:ヴォイグのCEOがフランス議会に提出した嘆願書

Bouygues SA (EN) Chief Executive Officer Martin Bouygues asked French lawmakers to block Iliad SA (ILD) from renewing its mobile-phone roaming agreement with the former state monopoly France Telecom SA (FTE), Le Figaro reported.
(略)
He argued that Iliad should not be allowed to renew a national roaming agreement good through 2018 under which France Telecom carries much of its mobile traffic while Iliad builds out its own network.

Bouygues Raises Complaints About Iliad To Lawmakers, Figaro Says - Bloomberg

この記事によると、昨年のネットワーク投資額はイリアドが1億4200万ユーロに対し、ヴォイグは6億ドルだったという。


註10:イリアドの訴え

Free, the French mobile-phone service owned by Iliad SA (ILD), sued Vivendi SA (VIV) unit SFR, claiming its offer to subsidize handset purchases to customers who sign a service contract constitutes unfair competition.

Iliad's Free Sues Vivendi's SFR On Subsidized Mobile Phones


註11、12:ユーザーの価値観の変化

2010年6月時点で、すでに月間1億2400万人のアクティブユーザー(ただし、デスクトップユーザーも含む)。

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