IBMが提案するアジャイル+DevOpsな開発環境

冨田秀継 (編集部) 2012年10月30日 20時10分

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 日本IBMは10月30日、東京・中央区のロイヤルパークホテルでイベント「IBM Rational Innovate 2012」を開催した。2003年から毎年開催しているイベントで、今年は2000人以上が申し込んだという。

 今回は“Next Now”(次に取り組むべきこと、今すべきこと)をテーマに、ソフトウェア開発やプロジェクト管理のより良いあり方を聴衆に訴えた。日本IBMはこのイベントの中で新製品を二つ発表している。

 冒頭、挨拶に登壇した日本IBM 専務執行役員 ソフトウェア事業担当のヴィヴェック・マハジャン氏は、「どのようにイノベーションを起こすか。これがRationalのテーマだ」と述べ、IBMがグローバルで実施したCEO Studyを紹介した。

ヴィヴェック・マハジャン氏
ヴィヴェック・マハジャン氏

 CEO Studyは世界の最高経営責任者(CEO)にIBMのコンサルタントがインタビューし、経営者の考えをレポートとしてまとめたものだ。CEOが世界の動きをどう捉えているかがよく分かる内容になっている。2012年版では世界64カ国、1709人の回答をまとめているが、重要な兆候が見られたという。

 「ビジネスを成長させるうえで、最も重要視しなければならない外的要因とは?」との質問への回答で「テクノロジ」が1位になったのだ。後述するが、モバイル、ソーシャルメディア、クラウドはもはや流行ではなく、経営者が最も重視する「テクノロジ」の代表例として浮上してきている。

「CEOもビジネスの成長にテクノロジを活用したいと関心を集めている。また、急速に変化するビジネス環境に、迅速に対応したいという気運も高まっている」(マハジャン氏)

 マハジャン氏はここでイベントのテーマ「Next Now」の意図を紹介。「激しい変化のなかでいかにビジネスを成長させていくか。IBMはどうやって支援していくのかを紹介したい」と述べ、挨拶を終えた。

  • テクノロジが1位になるのは5年ぶり。長く「市場の変化」が首位だったことがわかる

  • IBMが考える「ビジネスを駆動するテクノロジ」は6分野ある。しかし、それらは相互に関連している

  • モバイルアプリを開発するならソーシャルもクラウドもセキュリティも考慮する必要がある

IBMらしい歴史観でデジタル社会を俯瞰する

渡辺公成氏
渡辺公成氏

 基調講演には日本IBM 理事 ソフトウェア事業 ラショナル事業部 事業部長の渡辺公成氏が登壇し、「次に取り組むべきこと、今すべきこと “Accelerated Delivery”」とのテーマでIBMの考えを説明した。

 渡辺氏は「Accelerated Delivery」というコンセプトを直接説明する前に、IBMらしい歴史観でコンセプトを表現していった。

 その例としてあげたのが音楽産業だ。1910年(明治43年)、日本初の国産蓄音機「ニッポノホン」が開発された。1948年にLPレコード、1966年にコンパクトカセット、1979年にはソニーが初代ウォークマンを発売。そして1982年にコンパクトディスク(CD)のプレイヤーが登場する。1998年には米Diamond Multimediaがフラッシュメモリに音楽を収録する携帯プレイヤーを発売。2001年には米Appleから今も続くiPodが発売された。

「iPodは、他の携帯音楽プレイヤーと何が違ったか。Appleは、音楽をサービスとして配信するというビジネスを展開した。そして今ではスマートフォンやタブレットで音楽を聴く人もいる。蓄音機から始まった100年の歴史の中で、このような(デジタル化した音楽を携帯するような)ことができるようになったのは、つい最近のことだ」(渡辺氏)

 次に渡辺氏は、マサチューセッツ工科大学 メディアラボ創設者であるNicholas Negroponte氏の著作『Being Digital』からデジタル化が引き起こす現象を紹介。「1日1円ずつお金を増やしていく方法と、1日(1円から始めて)2倍ずつお金を増やしていく方法を比較してみたい。すると、最初はほとんど差が無いにも関わらず、最後の3日間で指数関数的に差が開く」と述べた。

 先に記した音楽産業の例からも分かるとおり、デジタル化が社会にもたらす影響が顕在化してきたのは「本当につい最近のことだ」と、渡辺氏は繰り返す。

 情報がデジタル化したことで、世界中の人々のライフスタイルが変わり、さらにはビジネスも急速な変化にさらされている。ソフトウェア開発は、、このような環境の変化と無縁ではいられない。人々のライフスタイルが変われば、求められる製品やサービスも変化するからだ。

 特に現代は「コンシューマライゼーション」の時代でもある。以前、Linux創設者のLinus Torvalds氏のインタビューでコンシューマライゼーションを簡単に定義したことがあるので、ここでポイントを二つに絞って紹介したい。

  • イノベーションが起こる場所の変化:従来は、大企業や政府、軍など、大組織(エンタープライズ)での技術活用が契機となりイノベーションが生まれていた。それが近年、一般消費者向け(コンシューマー)市場でイノベーションが発生している。FacebookやTwitter、iPhoneやiPad、Androidがその典型例として挙げられる。
  • 消費者市場で生まれたイノベーションの企業活用:ソーシャルメディアやスマートフォン、タブレットデバイスなど、コンシューマー市場で生まれた製品が、次に企業で活用されるという逆転現象が起きている。従来はエンタープライズで発生したイノベーションが、コンシューマー市場に“下りてくる”のが常だった。

 「インターネットの利用者は2001年に5億人。それが2012年には23億人にまで増加した。その大きな牽引力となったのがスマートフォンだ。さらに、もう一つの要因がソーシャルメディア。23億人の利用者のうち、およそ半分の10億人がFacebookユーザー。Google+は9カ月で1億人のユーザーを獲得している。また、今こうして皆さんにお話ししている間に、YouTubeには1本ごとに48時間分の動画がアップロードされている。Twitterでは10万のツイートが、Facebookでは68万の投稿がポストされている。ソーシャルメディアは強力だ」(渡辺氏)

 「人類の歴史において、革命が起きる時には強力なリーダーがいた。毛沢東やレーニンのようなカリスマ的なリーダーがいたのだ。しかし、2011年のアラブの春にカリスマ的なリーダーはいない。ある日ソーシャルメディアを通じて、この場所でデモをやろうと伝えたら25万人が集まった。ソーシャルメディアの強力な力を無視できないのではないか」(渡辺氏)

 渡辺氏は聴衆に向かって、現場のニーズに基づいてシステム開発を進めているとしても、コンシューマライゼーションによって顧客の嗜好やライフスタイルが加速的に進化している現状を説明。『Being Digital』の喩えにならい、「10年前にはこの早さが考えられなかったのではないか」と訴えた。

  • コンシューマライゼーションの波

  • 強力な存在感をみせるソーシャルメディア

 IBMが実施したCEO Studyからも、経営者はこの現象を敏感に察知している様子が分かる。

 CEO Studyによると、経営者はまず「破壊的テクノロジが消費者先導で生まれている」との認識を持っている。さらに、破壊的テクノロジが引き起こす「イノベーションが世界で同時多発的に発生している」とも考えている。しかし、イノベーションは旧来の「大企業や行政からではなく若い世代から世界に広まっている」とする。そして、若い世代はイノベーションで「ソーシャルネットワークを通じたつながりの形成」を行っていると考えている。

 このことから、「モバイル、ソーシャル、クラウドは、もはや流行ではない」と渡辺氏。急速に変化するだけでなく、これら3つの領域をまたがる複雑なトレンドに対して、ソフトウェア開発はどのようなアプローチを取ることができるのだろうかと問いかけた。

使われるまでがデリバリー

 本題の「Accelerated Delivery」は「開発の迅速化」を指す。デリバリーは配達を意味するが、この文脈では企画、開発、運用を経て、顧客の元に製品やサービスを提供届けるだけでなく、さらにそれが使われるまでを指している。

 ソフトウェア提供する事業部門、開発部門、運用部門のそれぞれの垣根を取り払い、さらには提供者サイドと顧客サイドの垣根も取り払って、迅速に製品やサービスを提供しよう、そのための最適な開発プラットフォームを持つのがIBMだと言いたいわけだ。

 当然、各部門には課題がある。開発部門では、開発プロセスを通じて使用するツールが不揃いだというケースがよくあるだろう。事業部門では、ツールの要望を開発に伝えたつもりでも、開発側でその意図をなかなかくみ取れないといった問題はよく聞く。開発と運用部門の間でも、開発したツールがなかなか運用に載らなかったりすることもある。載ったとしても、アプリケーションの修正や障害で運用側からの情報照会に開発が適切に答えられず、対応に時間がかかってユーザーが損害を被ることもあるだろう。

 IBMではこれらの課題をRationalブランドの製品で解決していきたい考えだ。まず開発部門の課題解決にはソフトウェア開発のライフサイクル管理製品群「Rational Collaborative Lifecycle Management」を提案。迅速な開発を支援するため、要求開発を支援する「Rational DOORS」と「Rational Requirment Composer」、開発者のタスクを管理し、人と情報を結びつけるプロジェクト管理基盤として「Rational Team Concert」を用意している。また、アジャイル開発では実装とテストを素早いサイクルで回すことになるため、特に重要になるのが品質管理だ。この領域では実装と同時にテストを行う「Rational Quality Manager」を提案している。

 事業部門と開発部門の間にある課題解決では「Rational Focal Point」が役に立つという。Rational Focal Pointは、社内外のプロジェクト関係者がお互いの「やりたいこと」と「できること」を付き合わせるためのダッシュボードだ。この上で優先順位や投資対効果を議論するとともに、アイデアや要求を一元的に管理。検討の経緯と推移も記録できる。この製品は「開発の現場だけでなく、製造業で優先順位を決めるためにも使われている」と渡辺氏は語っている。

 さらに渡辺氏は「ディシプリンド・アジャイル・デリバリー」というコンセプトを紹介しながら、「私たちが目指すのは、大規模な基幹系開発でも使えるアジャイルプラットフォームだ」と強調した。

  • Rational Collaborative Lifecycle Management

  • Rational Focal Point

  • 要求開発を支援するDOORSとRequirement Composer

  • Rational Team Concert

  • Rational Quality Manager

 開発と運用の間にある垣根では、近年大きなムーブメントになる兆しを見せている「DevOps」を支援する製品を用意した。情報システムのクラウド化が進むなか、開発したアプリケーションをいかに素早く運用フェーズに乗せていくかがカギとなる。開発と運用を一体化するような、高いレベルでの連携が重要になるのだ。

 そこで、日本IBMは本日「SmarterCloud Continuous Delivery」を発表した。同製品は「運用環境を徹底的に自動化させる製品」と渡辺氏が言う垂直統合型システム「PureApplication System」と、Rational Collaborative Lifecycle Managementを結びつける新製品だ。これにより、Rational Team ConcertからPureApplicationに配置されている仮想サーバ環境を統合管理できるようになる。

  • クラウド時代には開発と運用のさらなる連携が求められる

  • IBMの垂直統合型システム「PureApplication System」

 事業部門、開発部門、運用部門に固有の課題、そして部門間の課題を解決する製品を紹介してきた。これらの製品の基盤となるのが「Jazzプラットフォーム」だ。

「“Accelerated Delivery”をJazzプラットフォームで提供する。Jazzはプロジェクトを超えて、人と人、人とテクノロジを結びつける」(渡辺氏)

 また、渡辺氏は買収したWorklightをベースにした「Mobile Development Lifecycle Solution」の提供も発表した。モバイルアプリケーションの開発ライフサイクルを支援する新製品。ネイティブアプリケーションだけでなく、ハイブリッドアプリやモバイル・ウェブ・アプリ向けに統合開発環境を提供。さらに「IBM Mobile Platform」とも統合されており、分散チームビルドやテストの実行が可能。また、開発したアプリをテストする「モバイル・デバイス・クラウド」サービスとも統合されている。

 「モバイルアプリケーションでも“Accelerated Delivery”を是非実現してもらいたい」(渡辺氏)

  • Jazzプラットフォームの位置づけ

  • モバイル開発でもアクセラレーテッド・デリバリーを支援

 渡辺氏は最後に「変化のスピードも変化そのものも、止めることはできない。これを脅威と捉えるか、チャンスと捉える——可能性を持った環境が広がると捉えて、Jazzプラットフォームで広がる“Accelerated Delivery”を提供していきたい」と述べ、講演を締めくくった。

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