キヤノン、スターバックス、公益財団法人松下政経塾が連携して、2011年7月から被災地における「道のカフェ」の活動を行っている。被災地にオープンスペースのカフェを生み出すことで、そこで生活する人たちが、リフレッシュしながら対話できる場をつくり、地域コミュニティの再生を目指すのが狙いだ。
コーヒーを飲みながらおしゃべりしたい
「うちには写真が1枚もなくなってしまったのだから、この機会に一緒に撮ろう」——。
カメラマンにレンズを向けられ、嫌がる子供を、お父さんがなだめていた。
「道のカフェ」プロジェクトに参加したキヤノンは、プロカメラマンによる写真撮影のサービスを提供している。撮影した写真はすぐにプリントアウトされ、その場で手渡される。
「もう出来上がったの?」
写真屋での現像しか体験したことがなく、写真ができあがるのにはかなりの時間がかかると思っていた年輩の男性からは驚きの声があがる。手にした写真をみた顔は、本当にうれしそうだ。
「写真を撮って、被災地の人がどれだけ喜んでくれるのか。正直なところ、企画段階ではまったく想像がつかなかった。だが、現地で喜ぶ人の顔を見て、写真が持つ力をあらためて感じた」と、キヤノン インクジェット事業本部管理センターの小林克彦氏は語る。
道のカフェに参加したキヤノンの社員たちも、この取り組みが被災地で予想以上の反応となったことに驚いている。
道のカフェは、スターバックス、キヤノン、松下政経塾の異業種3者の連携による復興支援プロジェクトだ。
被災地でオープンスペースのカフェを開設し、震災者たちがコーヒーを飲みながらリフレッシュしたり対話できる場をつくることを目的にしている。
松下政経塾が地域ネットワークを通じてフィールドを設計し、スターバックスがオープンスペースのカフェ空間をつくる。そして、カフェ開設時には、キヤノンがプロカメラマンを派遣し、撮影した写真を、その場でキヤノン製プリンタからプリントアウトして、被災者たちの思い出として、また、東北が復興に向かう姿を全国に向けて継続的に発信することで、中長期的な復興支援を呼びかけるという狙いもある。
キヤノンがこのプロジェクトに参加するきっかけは、2011年6月に松下政経塾が企画した「被災地スタディプログラム」の被災地視察研修に、キヤノンのインクジェット事業本部管理センターの中山勉部長が参加したことだった。
参加者の多くは企業の業務として参加したのではなく、費用は自腹で参加していたという。いわば、被災地と真剣に向き合おうとした参加者ばかりの研修であったともいえる。中山部長もその一人だ。
「陸前高田や気仙沼などを3日間に渡り視察したが、震災からわずか3カ月の状況のなかで、被災者たちが自分たちの生活を取り戻すために必死の努力をしている様子を目の当たりにした。人生観が変わるほどの衝撃を受けた」と、その視察研修を振り返る。
視察中、陸前高田の避難所で、被災者の一人がこんなことをつぶやいたという。
「うまいコーヒーでも飲みたいよね」
まだ被災地は生活物資が十分な状況ではなかった。コーヒーを飲んでいる場合ではないというのが実際のところであったであろう。
しかし、うまいコーヒーを飲んでゆっくりしたい、コーヒーを飲みながらおしゃべりしたい、コミュニケーションを取りたいという気持ちが、こうした言葉になったのだろう。
ちょうど松下政経塾では被災地に向けた新たな支援策を検討し始めていたところであった。いわば、緊急物資から生活物資へと支援内容が変わりつつある段階でもあったといえよう。
この言葉をもとに、松下政経塾と視察研修に参加していたスターバックスが企画を立案。一気にプロジェクトを立ち上げた。
この結果、スターバックスが被災地にコーヒー出前するという、ユニークな支援が始まることになったのだ。
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