電通国際情報サービス(ISID)では、今年度も金融イノベーションに特化したイベント「FIBC2013(Financial Innovation Business Conference)」を3月18日に開催する予定で、それに向けた登壇企業の募集を開始した。昨年度も多くの金融関係者やベンチャー企業、メディアなどが集まり、予想を超える盛り上がりを見せたが、2回目を実施するに当たって、改めてその主旨を概観したい。
金融業に求められる役割
今年5月に金融庁より公表された「我が国金融業の中長期的な在り方について(現状と展望)」において、「金融業に求められている役割は、実体経済を支え、かつ、それ自身が成長産業として経済をリードすることにある」と定義されている。つまり、金融業は、単に社会インフラとして決済や資金の仲介役を担うだけでなく、自らが経済を成長させ生活者の暮らしを豊かにするよう、能動的な役割を果たすことが求められている。
米国においては、今年3月、JOBS法(Jumpstart Our Business Startups Act)という法律が制定された。これは、新興企業が小口投資家から資金を集めることを制度的に担保するもので、一般投資家に新興企業への投資機会を提供すると共に、新興企業は幅広く資金を募ることができるようになる法律だ。
そして、この政策の前提となるのが、クラウドファンディングと呼ばれる小口資金を集めることを可能とするテクノロジプラットフォームの存在である。つまり、金融機能はテクノロジの力を活かすことによって、今までと違うお金の流れを作り出し、実体経済を支え、生活者の暮らしを豊かにすることが出来る。これは日本においても、PtoPレンディングやクラウドファンディングの成長によって実現しつつある。
テクノロジの役割
今年9月の日銀短観によれば、日本の金融業が行う設備投資(土地を除く)に占めるソフトウェアの割合は約45%である。全産業平均が約10%であるのに対し、圧倒的に高い比率である。金融業は、もともとITインテンシブな産業ということだ。大量のトランザクションを正確に処理し、顧客との多様な取引チャネルを維持するためには多大なコストが掛かる。
しかしながら、これまでに行われてきたIT投資は、その処理のスケールを拡大し、スピードを速め、種類を増やす、という現在あるビジネスモデルをより良くするという発想に基づくものが中心であった。これに対し、クラウドファンディングのように、お金の出し手と取り手を直接的に結び付けたり、あるいはソーシャル家計簿のように、無料で資産管理機能を生活者に提供したり、というように、テクノロジにより新しいビジネスモデルを構築するという点では、まだその黎明期である。
テクノロジ起点のイノベーションを
金融業においてテクノロジが果たす役割が大きい以上、そのイノベーションに関わる責任の一旦はIT企業にもある。昨年に続いて、ISIDがFIBCを開催することの主旨は、まさにそこにある。金融は装置産業であり、また規制産業であるが故に、新しいアイデアも現在の仕組みや枠組みを前提としたものになりやすい。そこで、テクノロジの進化や顧客の変化を起点とした発想をいかに取り込むかが、金融業におけるイノベーションの成否に繋がる。
FIBCは、金融領域の様々なベンチャー企業にデモ、プレゼンを行ってもらい、金融関係者と交流する機会を設けることで、その触媒になろうとするものである。つまり、テクノロジや顧客視点で生まれる新しい金融サービスが具現化する、あるいは既存の金融サービスと融合していく機会を創出することで、金融イノベーションの活性化を図ろうとするのである。
現在は登壇企業の募集を始めたところであるが、今年も新しいアイデアを持つ企業の方に多く集まって頂けたら幸いである。3月へ向けては改めてイベントへの参加者の募集も告知する予定なので、是非多くの方にご参加頂けたらと思う。また、Facebook上では、昨年のFIBC以降、新しい金融イノベーションの動きを紹介するページを公開しているので、興味がある方はフォローして頂けたら幸いである。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。