企業という組織の能力に組み込まれて初めて実現するイノベーションの継続

飯田哲夫 (電通国際情報サービス)

2012-05-15 12:42

 前回は、イノベーションを起こすのに企業文化が重要な役割を果たすという議論を行った。今回は更に突っ込んで、そのイノベーションの中身、イノベーションのポートフォリオについて議論したい。ここでは、『Harvard Business Review(HBR)』5月号の「INNOVATION」の特集にある「Managing Your Innovation Portfolio」という記事を題材に考えてみたい。なお、同記事の執筆者はMonitor GroupのBansi Nagji氏とGeoff Tuff氏である。

ポートフォリオという考え方

 HBRでは、イノベーションを“CORE”と“ADJACENT”と“TRANSFORMATIONAL”に分類している。つまり、ある企業を想定した場合、イノベーションには、その企業のコアビジネス領域におけるイノベーション(CORE)、コアビジネスの隣接領域におけるイノベーション(ADJACENT)、そしてコアビジネスからは遠いビジネスのあり方を大きく変えるようなイノベーション(TRANSFORMATIONAL)の3つがあるという。

 つまり、イノベーションと言っても、コアビジネスに近いところから遠いところまでいろいろある訳だ。そして、きちんとそのポートフォリオを管理しておかないと、コアに近いところのイノベーションのみに投資をして、徐々に企業としての活力が失われてしまうことになるぞという訳だ。実際に調査によれば、企業価値を最大化させるイノベーションのポートフォリオというものがあるようだ。

最適なイノベーションのポートフォリオはあるのか

 同記事の執筆者が行った調査によると、企業価値を最大化させるイノベーションのポートフォリオとは、CORE:ADJACENT:TRANSFORMATIONAL=70:20:10なのだそうである。

 ただ、ここで執筆者が付け加えているのは、これが全ての企業に当てはまる訳ではなく、その企業の置かれている産業、その競争上ポジショニング、企業の成長ステージなどによって変わってくるということだ。例えば、成長産業と成熟産業、リーダーとチャレンジャー、ベンチャーと大手企業では自ずとそのポートフォリオ配分が変わってくる。

 つまり、70:20:10というのはあくまで平均値としての意味しかない。しかしながら、ポートフォリオの配分が企業のパフォーマンスに影響するという事実に基づき、その平均値を出発点として個々の企業がどの程度の配分を最適とすべきなのかを議論することは重要である。

 往々にしてイノベーションへの投資というのは、売り上げに対するR&D比率として捉えられ、その適切さはどれだけ収益に貢献するかで判断される。しかし、“TRANSFORMATIONAL”なイノベーションは、そもそも短期的に収益を生まないものである可能性が高く、そこに予算を付けるには意識的なポートフォリオマネジメントが必要となる。

イノベーションマネジメントの難しさ

 しかし、イノベーションのマネジメントは、戦略として策定すれば実行できるというものではない。イノベーションのポートフォリオは、金融商品のように配分を決めて売買すれば最適化が図れる訳ではない。

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