東日本大震災で日本企業の多くのIT部門は、改めて事業継続計画(BCP)や災害復旧(DR)対策の必要性を痛感したに違いない。特に衝撃を与えたのは、被災した自治体の住民に関するデータがまるごと失われてしまったことだろう。復旧、復興に向けて基礎となるデータがなくなってしまったからだ。
自然災害などで企業が展開するビジネスが止まってしまうことはこれからも大いにあり得ることだ。問題となるのは、ビジネスの停止からいかに素早く復旧できるか、ということだ。ビジネスにシステムが欠かせなくなってしまった現在、システムを素早く復旧させるのは、IT部門の重要な役割になっているということは改めて言うまでもないはずだ。
評価されるクラウド
大震災後で大きく評価が進んだのがクラウドだ。未曽有のトラブルの真っ只中でも活用できたからである。以前の日本企業は、ファイアウォールの外側にあるリソースを活用するパブリッククラウドに対して、主にセキュリティやコンプライアンス上の課題から不審の目を向けてきた。だが、IDC Japanの調査でも明らかになっているように、大震災以後はクラウドを評価する声が出てきている。
ZDNet Japanで取り上げただけでもインターネットイニシアティブ(IIJ)や伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)、日立システムズ、大塚商会、Amazon Web Services(AWS)、ヤフーなどがクラウドを活用したバックアップサービスを提供している。東京証券取引所は、IIJが提供するクラウドサービス「IIJ GIO」を活用してデータバックアップシステムを構築している。日鉄鉱業はCTCのクラウドサービスを活用して全国24拠点のバックアップを取っている。グループウェア「desknet's」を提供するネオジャパンもユーザー企業の中で稼働するdesknet'sのデータをバックアップするクラウドサービスを提供している。
現実解としてのハイブリッドクラウド
クラウドというと、ファイアウォールの外側のパブリックか内側のプライベートという区別をするのが一般的だ。日本に限らず世界各国の企業は、システムやデータを自前で見られ、制御できるプライベートクラウドの方に重心を置いている。
だが、すべてを自前で制御するプライベートクラウドはどうしてもコストがかかる。そうしたことからプライベートとパブリックを併用するハイブリッドクラウドの方がより現実的な解決策となりつつある。自分たちにとってコアとなるシステムはプライベートクラウドに置き、ノンコアのシステムはパブリックラウドを活用するという形態だ。
ただでさえ、IT部門はコスト削減圧力にさらされている。ならば、持ちうるコストでより効果的なシステムで事業に貢献した方がいいだろう。そうしたことから、ハイブリッドクラウドは当然の帰結として浮かび上がってくる。
そうした視点で注目できるのが「AWS Storage Gateway」である。これはプライベートクラウドやオンプレミスで稼働する業務システムのデータを「Amazon Simple Storage Service(S3)」に自動で保管するというものだ。このStorage Gatewayもハイブリッドクラウドという解決策だ。
多くのIT部門が経験していることだが、バックアップの作業は手間がかかりやすい。ましてバックアップの作業自体が売り上げの増加につながるというものでもない。企業のIT部門にとってノンコアであるバックアップの業務は、外部のリソースを使うという選択肢は頭の中に置いておいた方がいいだろう。AWSでは、データアーカイブサービスとして「Amazon Glacier」も提供している。