組織の透明力

統制がきかない時代のリーダー像--鍵を握る「オープンリーダーシップ」

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)

2013-07-23 12:19

 2013年も、新興国を中心にソーシャルメディアの浸透は続いている。世界のPCインターネットユーザー数は23億人。それに対してFacebookの会員はついに過半数を上回り、Google+とYouTubeも25%を超えた。続くTwitterはこの1年で最も成長したソーシャルメディアとなり、中国のSNS群も力強くその勢力を拡大している。


PCベースのソーシャルメディア普及率 (出所: Statia/ GlobalWebIndex)

 今や人類は、かつてないほど緊密に、国境や組織を超えてつながった。グローバル資本主義はすべての価値を「貨幣」に換算して評価する風潮を世界中に広めたが、ソーシャルメディアはそのアンチテーゼとして「共感」「信頼」「評判」「尊敬」といった人間の情緒を可視化し、貨幣を超えた大切な価値を僕たちに思い出させてくれた。

 ソーシャルメディアが誘起した共感の時代、そのあるべきリーダー像として「オープンリーダーシップ」という概念を提唱したのは名著『グランズウェル』の共著者であるシャーリーン・リー氏だ。

 共感、信頼、透明、オープン、フラット。そんなキーワードにふさわしいリーダー像とはいかなるものだろうか。それは従来型の組織にも適用できるものなのだろうか。この記事では、既存の組織が持つ課題を浮き彫りにしながら、この古くて新しいリーダーシップの本質を明らかにしてゆきたい。

従業員が働かないのは誰のせいなのか?

 僕は1991年まで日本IBMに勤めていたこともあり、富士通に対しては今も畏敬の念を持っている。当時、IBMは世界中で無敵の快進撃を続けていたが、トップシェアを取れない唯一の支社、それが日本だった。そこに富士通がそびえていたからだ。ついたあだ名は「野武士軍団」。国産コンピュータのパイオニアとされた池田敏雄氏をはじめ、寝る間も惜しんで没頭する野武士のごとき技術者たちが富士通の隆盛を支えていた。

 1993年、そんな野武士軍団に成果主義が導入される。当初は日本的経営の転換として大きな注目が集まった。トップダウンで目標を個人にまでブレイクダウンし、社員はそれに対する成果で評価されるシステムだ。バブルが崩壊し、日本的経営の限界が叫ばれる風潮の中で、年功主義から実力主義へ、エクセレントカンパニーが舵を切ったのだ。マスメディアも好意的に受け止め、経済界でも先駆的な事例として大いに注目が集まった。

 しかし社内の現実は異なっていた。個人評価は、事業部長と部長で構成された「評価委員会」で平準化されるため、結局は相対評価となる。社員の顔も技術もよく知らない委員会が社内の力関係で調整するため、目標に達しても評価されない社員が多く出た。その不満に対処するために絶対評価に移行すると、A評価が一気に増加して8割を占め、優秀な社員が埋もれてしまう結果となった。

 社内の不満が溜まる中で、チームワークの崩壊、部門間の対立、長期的視野の欠如、挑戦意欲の減退といった成果主義の本質的な弊害も深刻化していく。社内の混乱は顧客サービスの低下につながり、顧客からのクレームが増加した。すると今度は「クレームゼロ」が目標として掲げられ、それに呼応して各部門はクレームを隠すようになる。結果として雑誌などで発表される顧客満足度も目に見えて低下してしまった。

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