「Amazonの配送センターで、未来に希望の持てる、ミドルクラスの雇用を作り出すことができるのか」。Barrak Obama米大統領が先頃行った演説を受けて、一部のメディアからそんな疑問を呈する声が上がっている。
[President Obama Speaks on Jumpstarting Job Growth] (この動画を見ると、Obama大統領は依然として「ハイテク製造業育成で、ミドルクラスの仕事を作るんだ」などと本気で言っているようにも見える。きっと今年冬にFTに出ていたAmazonの英国物流拠点の話など読んでいないか、読んでいたとしたら意図的に無視しているのかもしれない)
Obama大統領が、雇用創出策を抱き合わせにした法人税改革案の発表の場として、Amazonがテネシー州チャタヌガに新設した物流配送センターを選んだことは、すでに各所で伝えられている通り。またこの訪問、演説に先立って、Amazonが同物流センターで約5000人(カスタマーサービス関連も含めると合計約7000人)を新規採用すると発表していたこともいろなところで伝えられていた。
- アマゾン、米国で7000人を新規雇用へ--CNET Japan
Amazonは今、広大な国土を持つ米国で本格的に翌日配送サービスの展開を進めようとしているから、単なる「人手」ならいくらでも必要といった状況。ざっくりとした試算で州ごとに1つずつ同規模の配送拠点を設けるとしたら、全部で25万人くらいは雇用を作り出せる、といった皮算用も成り立ちそうだ。
もっとも「マシンではまだできない」あるいは「人手を使った方が安上がりな」仕事をさせるために多くの人員を雇っているのもよく知られているから、はたしてこの5000人の新規雇用の中に、Obama大統領が力説しているような「ミドルクラスのジョブ」がどれくらい含まれるのかは不明、という感じであろう。
Obama大統領による、この「微妙な選択」を受けて、FortuneやThe Vergeなどがさっそく「Obamaは本気でそう言ってるの?」みたいな突っ込みを入れている(そういう趣旨の記事を掲載していた)。
- Why is Obama giving his economy speech at an Amazon warehouse?--Fortune
- President Obama praises Amazon in jobs speech at one of its controversial warehouses--The Verge
- Are these really the jobs that will rebuild America?--The Verge
この中で、Fortuneの記事には「Amazonは、近隣の小売業に比べて30%ほど高い給料を払うと自慢しているが、実は時給は11~13ドルくらいで、1年働いても2万3000~2万7000ドルくらいにしかならない――それだと連邦政府の貧困の基準(家族4人の家庭の場合)をぎりぎり超えるかどうかという水準」(註1)だとか、「チャタヌガ周辺の平均世帯年収は約3万7000ドル、テネシー州全体では4万4000ドルで、Amazonの配送センターにフルタイムで務めたとしても到底届かない金額」(註2)などとある。
ただし、Amazonが「採用する」と言っている5000人全員が、実際に商品棚の間を歩き回る人手を見張る「現場監督的な人間」ということも考えられ、その場合には「時給11~13ドル」よりも高いサラリーの仕事になるとの可能性も残りはするのだが。いずれにせよ、あいだに人材派遣会社が入って、いつ仕事がなくなるかもわからない英国の配送センターの場合と比べれば、このチャタヌガでの仕事の方がいくぶんかマシ、ということになるかもしれない。
ただし、この件に限ってはAmazonがどうこう……ということはさして重要でなく、大いに問題なのは(あるいは馬鹿げてみえるのは)Obama政権側の「勘違い」の方だろう。Fortune記事には、ホワイトハウスのPR担当が地元紙に寄せたコメントが引用されているが、その内容は「Amazonがチャタヌガに設ける配送拠点は、米国の労働者に投資し、(条件の)良い、高賃金の仕事を作り出そうとしている企業のパーフェクトな例」などとなっている(註3)。