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汎用製品への特化こそ競争力を高める--インフォテリア平野社長

大川淳 山田竜司 (編集部)

2013-08-29 19:02

 インフォテリアは、システム連携基盤ソフト「ASTERIA」で知られ、この分野の製品では、大きく先行している。“つなぐ”を基本的な発想として、常に新しいものの創造を念頭に、開発に最重点を置いている。1998年の創業より15年、同社を率いる代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)の平野洋一郎氏に、ソフト開発の基本、技術と経営、組織論などについて聞いた。


平野洋一郎 代表取締役社長 カンパニーカラーであるグリーンを普段から身につけているという

海外進出は、創業当時からの目標

--インフォテリアが、他の企業と大きく異なっていることはどのようなことか?

 当社は、ビジネスソフト開発を主業務としており、汎用パッケージに特化しています。100%製品だけというのは、国内でも珍しいでしょう。ソフトウェア開発に従事する企業で、製品を擁しているところは多くありますが、大半は、カスタマイズやシステムインテグレーターをしていますし、その比率も高い。NTTデータなどを筆頭に、受託開発が主力です。

 海外では、GoogleやMicrosoft、Oracleをはじめ、大規模なベンダーは皆、製品が中心です。Facebookなども、特定の相手向けに仕事をしているわけではありません。当社も創業以来、一貫して、できるだけ多くの人々に使ってもらえる製品を開発することを心がけており、海外へと進出していくことを目指しています。ただ、いまのところ、99%は国内向けです。

--昨年、海外進出先として、中国を選んだのはなぜか?

 2012年2月に中国浙江省杭州市で、11月には上海に100%子会社を設立しました。当社はこれまでに2度、海外進出を図っていますが、いずれも撤退しています。今回で3度目の挑戦ということになります。当社は、私と北原(淑行氏=同社 取締役副社長)が、会社を設立した頃から、世界市場へソフトを売り込んでいこうとの意気込みがありました。海外に進出しようと、力を込めている企業は多いのですが、その背景としては、日本市場ではもう伸びないとか、外に出て行かざるを得ないといった事情があるようです。

 株主からは「なぜ、いまのように、中国との関係が良くない時期に、わざわざ出ていくのか」と批判されました。しかし、中国では、タブレット端末などのスマートデバイスが爆発的に普及することが予想されます。そこに価値を提供したいと考えています。われわれの技術を役立てると確信しているからこそ、いま、中国市場を目指しているのです。

受託開発の誘惑を断ち切る

--なぜ、徹底的に汎用製品を重視しているのか?

 私は、かつてロータス(現:日本IBM)に在籍していた頃、米国と日本のソフトベンダーの経営姿勢の違いや、日本のソフトベンダーが衰退していく例を見てきました。ロータスは、表計算ソフト「Lotus1-2-3(1-2-3)」やグループウェアの「Lotus Notes」を世界中に向けて、販売していました。開発には数十億ドルもかけているわけですが、(汎用性を無視して)個別的な開発をしていると、スケーラビリティが損なわれてしまいます。

 

 われわれは日本育ちですから、「お客様は神様」という精神が底流にあります。当時1-2-3は単体で9万8000円だったのですが、1-2-3にこんな機能を載せてくれたら、100万円払っても良い、という顧客もいました。しかし米国の本社では、そのような発想はまったく理解されません。汎用製品をカスタマイズしたりすればそれ以後のメンテナンスなどにたいへんな手間がかかります。スケーラビリティが失われ、たとえ1本100万円もらったとしても結局は割に合わないのです。

--なぜ、国内では、受託開発を主力とする企業が多いのか?

 私は学生の頃熊本にいたのですが、その頃大学の周りに、ソフトウェアのベンチャーがあちこちに現れました。熊大はキャリーラボ、九大はシステムソフト、阪大はダイナウェア、東大はサムシンググッド、北大はハドソンというように。当時、最初はソフトのみを販売していたベンチャーでも次第に受託開発が中心になることが多かったように思います。企業は従業員を養う日銭を稼がなければなりません。すると、ITベンチャーの場合、受託開発に依存することが多くなります。製品を開発しても、必ずしも当たるとは限りませんが、受託開発は、与えられた注文書に沿って開発すれば良いので、起業にあたっての投資は回収できるからです。

 なにしろあの当時、ゲームソフトは1本3000円、OSが1万円くらい。一方受託なら、1件で数百万円です。ベンチャーは資金繰りが重要な課題ですから、受託の“誘惑”には抗いきれません。もうひとつ、日米の大きな違いは、ベンチャーキャピタルの有無です。米国では起業したばかりで資金がなくても、ベンチャーキャピタルが投資してくれる機会があり、開発にあたることができます。結局、国内の多くのソフトベンダーは受託への依存度が高くなり、汎用ソフトでは、外資系の企業に浸食されてしまいました。受託をなるべく組み入れないことが、いかに重要か。ロータスにいて、よく分かりました。

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