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ドバイとアメリカンストリートの距離感--金融システム改革の道筋

飯田哲夫 (電通国際情報サービス)

2013-09-18 12:00

 金融危機から5年、久々に「Occupy Wall Street(ウォール街を占拠せよ)」という言葉をBusinessweek誌で見かけた。しかも、それがまだ続いていると。

 「Occupy Wall Street」とは、2011年頃に金融機関などアメリカの経済の中枢を担う企業に対する反発から起こった抗議活動のことである。その社会的背景には、アメリカにて拡大する格差社会の問題がある。

 一方、ほぼ同じタイミングで、米国の住宅金融市場が急速に回復しつつあるというニュースが日経で報じられた。米国の住宅金融と言えば、低所得者に貸し付けたサブプライムローンが金融危機の発端とされている。

 住宅ローンを裏付けとする債券の民間金融機関による発行額は、2011年には危機前のわずか1%という水準にまで落ち込んでいた。それが、今年に入って急速に回復しつつあるという。

 住宅金融市場が復調しつつあるのに、未だ「Occupy Wall Street」運動が続いているとはどういうことなのだろうか? 市民の生活が良くなれば、もはや路上の抵抗運動は収束しそうなものだが…。

未だ解決していない問題

 「Occupy Wall Street」運動の主要テーマの一つは、一般市民の生活をないがしろにして収益の追求に突き進む金融システムに疑義を呈することであった。それゆえに、「Occupy Bank」構想など、新しい金融サービスの可能性も議論された。

 しかしながら、ストリートや公園を拠点とする活動は、金融システムの改革者たちよりも、支援を求める多くのホームレスを引きつけることとなり、徐々にその運動はホームレス支援へと形を変えていった。そして、現在続く「Occupy Wall Street」は主としてホームレス支援のあり方に関する議論が中心となっているようだ。

 一方、米国における住宅金融市場の復活に関して言えば、それは信用力の高い借り手を対象としたもので、未だ信用力の低い層は置き去りにされている。つまり、金融システムの主要なプレーヤーによる社会問題の解決はなされていないのである。また、金融危機による混乱の再発を防止するための金融規制の施行に関しては、まだその緒についたばかりである。

新しい担い手

 一方で、その間に多くのネット系の金融ベンチャーが市場に参入した。PtoPレンディングサービスは市場に定着し、クラウドファンディングなど、既存の金融システムを必ずしも経由しない新しい資金集めのプラットフォームが出来上がりつつある。

 こうして振り返ると、金融危機を契機として勃発した「Occupy Wall Street」運動は、それそのものが金融システムを改革することには至っていない。しかしながら、金融システムに反発する機運は、ベンチャー企業をして、新しい金融サービスの構築へ向かわせることになったのは事実だろう。

 また、新興国においてはマイクロファイナンスが規模の拡大を続け、送金サービスでは、Western Unionのようなノンバンクのプレーヤーが幅を利かせている。これからの成長が期待される新興国の低所得者層に対するサービスは、既存の金融機関よりも、むしろ新規プレーヤーが担っていると言える。新しい金融サービスのイノベーションは、こうしたところから起こるのかもしれない。

 今週から金融ビジネスをテーマとする世界的なカンファレンスである「Sibos」がドバイで開催される。その中では“Financial Inclusion”、つまり金融サービスを貧困層にまで届けることが一つのテーマである。路上で未だに続く「Occupy Wall Street」とドバイという中東の経済都市との距離の遠さが何とも皮肉である。

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飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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