GoogleのCampusビルの地下にあるカフェの店内は人でいっぱいで、心地よい暖かさに包まれていた。
風変わりな都会風のステッカーが壁に貼られ、ファンキーな音楽が頭上を飛び交うなか、流行に敏感そうな若者を中心とした常連客が口をへの字に結び、眉間にしわを寄せ、大まじめな顔をしているのは奇妙な光景だ。部屋の中央にはテーブルサッカーのゲーム台が置かれているが、誰もプレイしていない。彼らはプレイする代わりに、このカフェで未来の構想を練っているのである。
この場所こそが数十億ドル規模の新興企業を生み出す原始の海なのだ。
Campusビルのカフェや、このエリア周辺の似たようなカフェは、新興企業という新たな命を生み出すための素材で満ちあふれている。その素材とは、聡明な人々と素晴らしいアイデア、そして大量のコーヒーだ。
この原始の海から生み出されるアイデアの萌芽に必要なのは、数階上のフロアにまではい上がり、安い共有オフィススペースを見つけるか、大手IT企業に成長するチャンスを増やすための支援プログラムを見つけ出すことだけだ。
そして新興企業のこの進化プロセス、すなわちアイデアを実際のビジネスに転換するという錬金術的プロセスはGoogleのCampusビルに限って起こっているわけではない。ロンドン東部のこの一帯では複数のIT企業が続々と生み出されているが、こういった新興企業を生み出す舞台はシリコンバレーを生み出した舞台とはまったく違った様相を呈している。つまり、まるで一杯の紅茶のような独特のロンドンフレーバーが入っており、薄汚れたこの地区からの予期せぬインスピレーションを受けてもいる。
ロンドン地下鉄オールド・ストリート駅の現在の姿
提供:Steve Ranger/TechRepublic
一部の人々にとって、「テック・シティ」という呼び名はシティ・オブ・ロンドンの北東に位置する限られた小さなエリアを意味している。しかし今や、テック・シティはキングス・クロスからカナリー・ワーフやグリニッジ、オリンピック・パークにまで広がっている(ちなみにGoogleはキングス・クロスに、2017年までに6億5000万ポンドをかけて新しい本部ビルを建設し、5000人の従業員を収容する計画だ)。これが広大な地域に思えるのであれば、シリコンバレーというエリアが、当初はサンフランシスコで400万人の人口を抱えるサウスベイ一帯のことであったという点を知っておいてほしい。
テック・シティの地理的境界は曖昧であるため、現在におけるその影響範囲を数値化するのは難しい。ある試算によると、昨年1年間でロンドンの新興Eコマース企業にはおよそ3億4000万ドル、デジタルメディア産業には1億9800万ドル、ソフトウェア企業には6600万ドルが投資された一方、この年の前半でロンドンの新興企業は3億5100万ドルの資金を調達したという。これはシリコンバレーに流れ込んでいる資金と比べるとごくわずか、約10%ほどでしかない。
しかし、ここで明らかなのは、今までにない関心と勢いの存在だ。GoogleのCampusは、過去数年間で出現してきた、数多くの共同オフィスやアクセラレーター、新興企業インフラを構成するその他の要素の1つでしかない。ロンドンにおける新興企業のゴールドラッシュはまだ始まっていないのかもしれないが、つるはしとシャベルを売る店はできているというわけだ。