こうした考えを実行していくうえでポイントになるものとして、ガートナーが提唱している「ペースレイヤ」に触れた。ペースレイヤは、EAの1つのあり方とも言えるもので、アプリケーションの変更頻度(ペース)に注目して、システムを「記録システム(Systems of Record)」「差別化システム(Systems of Differentiation)」「革新システム(System of Innovation)」という3層構造でとらえる考え方だ。土台となる記録システムを固くし、その上にある差別化や革新のシステムに柔軟性をもたせることで、環境変化にしなやかに対応できるようするものとなる。
本好氏は「よくできたアーテクチャは、二律背反的な要素を高度にバランスさせている。これはスカイツリーなどの建物からも言えることで、がっしりした土台の上に柔軟なものをどうつくるかという課題になる。従来の手法を生かしつつ、最新の手法を積極的に組み合わせる考え方にもつながる。戦略と仕組みを絶えず進化させることが大事だ」と提言した。
変更頻度で3層化する“ペースレイヤ”の要点
Gaughan氏は「『アプリケーションのペースレイヤ戦略』の成功事例から学ぶ」と題して、本好氏が触れたペースレイヤの詳細と同戦略を採用することで成果を上げた顧客事例を紹介した。
Gartner バイスプレジデント Dennis Gaughan氏
ペースレイヤについては、変化率に着目し、変化が少ない安定したシステムを土台に、変化の多いシステムを上層にそれぞれ位置付けることがポイントだとし、それぞれのレイヤのシステムの特徴を紹介した。
記録システムは、組織の中で何十年にもわたって安定して動いてきたようなシステムだ。解決すべき課題ははっきりわかっており、アプリケーションは独自の方法である必要性はない。
その上の差別化システムは、ユニークで競合との違いを生むアプリケーションで構成されるシステムだ。差別化するアプリケーションは企業によって異なり、企業によっては製品開発のアプリケーションだったり、カスタマーサービスアプリケーションだったりする。ビジネスの変化にあわせてプロセスやシステムを変える必要がある。
最上層の革新システムは、よりイノベーションが必要なシステムだ。次の差別化につなげるために、何度も試行錯誤すべきアプリケーションが含まれる。失敗を早く経験してビジネスへの影響を検証し、実行コストを下げるといった迅速な対応が求められる。
「ERPシステムなど、1つのシステムで何でもこなそうと考えている企業が少なくない。レイヤごとにアプリケーションのポートフォリオを変えていく。記録システムにコストをかける必要はない。標準化してコストを下げ、その分を変革にかかわるシステムに振り向けることで、予算を捻出できる」
たとえば、レイヤごとにかける予算をセグメント化し、ペースレイヤの採用1年目には記録システムにかける予算を前年比80%、2年目には同60%、3年目には同50%などと減らし、その分を差別化システムや革新システムに振り向けていくということだ。
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ガートナーでは3年半前からペースレイヤの採用を提案しており、実際に成果を上げている顧客も多いという。Gaughan氏はそうした顧客のうち、不動産投資信託(REIT)事業者のLandSecurities、Amway、ストレージベンダーNetApp、オランダのリース業のde lage landen、印刷関連のLexmarkの事例を紹介した。
たとえば、LandSecuritiesでは、まず記録システムとして、カスタマイズを施さないERPパッケージ゙に移行し、変革に向けた費用を捻出。差別化システムとして売り上げサイクル管理システムを、革新システムとしてリースマーケティングのシステムやソーシャルやモバイルに対応した小売テナント向けのサポートシステムを新たに構築した。ペースレイヤを用いることで、コストがどのアプリケーションに割かれていたかを把握でき、それが取り組みを加速させることになったという。