日本IBMは4月24日、新RISCプロセッサ「POWER8」と同プロセッサを搭載したサーバ製品「IBM Power Systems S クラス」を発表した。POWER8はx86サーバと比較して50倍の分析処理性能を持ち、ビッグデータを高速処理できるという。Power Systems S クラスはLinux専用機など5モデルを6月10日から出荷する。
新プロセッサの発表は、旧POWER7の2010年から数えて4年ぶり。POWER7/7+が45/32nmプロセスでの製造だったのに対し、POWER8は22nmプロセスとなる。1チップ12コアで、コアあたり8スレッド(SMT8)の並列処理、書き換え可能なLSIである「FPGA(Field Programmable Gate Array)」のサポート、PCIeアクセラレーション機能などを搭載している(今回発表したサーバは1チップ6コア)。
日本IBM 代表取締役社長 Martin Jetter氏
日本IBM 理事 システム製品事業本部 サーバセールス事業部 大島啓文氏
日本IBM システム製品事業本部 システムズ&テクノロジー エバンジェリスト 伊東成倫氏
会見には日本IBM代表取締役社長Martin Jetter氏も参加し、「今後のイノベーションに対応できる重要なテクノロジだ。ビッグデータを高速処理できるプロセッサを持ち、高い信頼性と経済性を備えたクラウド基盤を構築できる。世界初のオープンサーバプラットフォームでもある」とアピールした。
システム製品事業本部 サーバセールス事業部の大島啓文氏がどのようなビジネス課題に対応できるのかを解説した。ビッグデータの高速処理といった用途では、「DB2」にインメモリ技術を活かしたハイブリッドデータベース「DB2 BLU Acceleration」やアプリケーション基盤ソフトウェア群「WebSphere」などを組み合わせたベンチマーク結果として、x86サーバと比較して分析処理が50倍、Javaアプリケーションの実行速度が2倍高速であったことを紹介した。
クラウド基盤に採用するメリットとして、余剰リソースを最適に利用するマルチスレッド技術でリソース使用率を高めていること、仮想化技術「PowerVM」に関する脆弱性報告がゼロ(米国脆弱性情報データベースの検索結果)と高いセキュリティを確保できること、オープンテクノロジを採用し、パブリッククラウドとプラベートクラウド間の連携性が高いことを挙げた。
オープンテクノロジについては、POWERプロセッサ向けハイパーバイザ「PowerKVM」やUbuntuサポートなど、Linuxに1000億円投資するなど積極的に取り組んでいることを紹介した。POWERアーキテクチャを公開して開発を進めるコンソーシアム「OpenPOWER Foundation」への参加企業が25社となるなど、エコシステムが拡大していることをアピールした。
OpenPOWER Foundationの新メンバーには、Canonical、Samsung Electronics、Micron、Emulex、Fusion-IO、Xilinxなどがあり、日本からも日立製作所が参加している。これまでの成果としては、NVIDIA GPUアクセラレータや今回POWER8に加わったCAPI接続のFPGAアクセラレーターなどがある。
Power Systems S クラスは、Linuxを搭載した2モデルのほか、ソケット数、コア数、メモリの違う3モデルの計5モデルを提供する。具体的には、Linux専用の「Power Systems S812L」「Power Systems S822L」と、Linuxに加えAIXとIBM iの複数OSに対応する「Power Systems S814」「Power Systems S822」「Power Systems S824」となっている。
拡販施策としては、スタートキャンペーンとしてLinux専用機を88万8000円の特別価格で提供するほか、1000人体制の営業活動を全国規模での展開、支援施設「Power Systems Linuxセンター」で独立系ソフトウェアベンダーが提供するソフトウェアを無償で支援するとした。
プロセッサの技術については、システムズ&テクノロジー エバンジェリストの伊東成倫氏が解説した。POWER7との比較として、マルチスレッドについて従来の4スレッドから2倍の8スレッドにしたほか、L1キャッシュ、L2キャッシュをそれぞれ64Kバイト、512Kバイトと2倍にした。eDRAMによるL3キャッシュを80Mバイトから96Mバイトに増やし、128MバイトのL4キャッシュを新たに加えた。メモリバンド幅は100~180GB/秒から230~410GB/秒に拡大させた。
PCIe(Gen3)をプロセッサと直接結合することでレイテンシを低下させたほか、「POWER8 CAPI(Coherent Accelerator Processor Interface)」という新技術を使うことで、OSやデバイスドライバによる処理のオーバーヘッドをなくし、I/O処理の高速化を実現したという。
オープンテクノロジでは、PowerKVMを中心に紹介。PowerKVMが追加されたことで、POWER8搭載サーバ上でLinuxディストリビューションとしてRed HatやSUSEのほかに「Ubuntu Server」も動作する。リトルエンディアンにも対応したため、x86環境のLinuxアプリケーションをPOWER8上のLinux環境下に容易に移行できるという。
たとえば、オンプレスのPower Systems上のOSやアプリケーションを、クラウドのPowerKVM上のOSやアプリケーションと連携できる。Ubuntuを開発するCanonicalのOpenStackディストリビューション「Ubuntu OpenStack」、Ubuntuのサービスオーケストレーションツール「Juju」も提供される予定としている。