Airbnbを使ってみた
3月にロンドンのバタシーパークで開催されるアートフェアに参加するためにロンドンへ行った。ロンドンの中心からは離れていて近くにホテルがないので、Airbnbに挑戦することにしてみた。
Airbnbとは、個人が使っていない部屋やアパートを、旅行者などに貸し出すためのプラットフォームを提供するサービスである。つまりPtoPのホテルサービスだ。
Airbnbのサイトでバタシーパーク近辺の物件を探すと、さまざまな価格レンジで何十と候補が挙がってくる。その中から、金額やスケジュールのマッチする部屋を選択するのはホテルと同じだ。
決定的に違うのは、仮に部屋が空いていてもホストが了解しなければ取引が成立しないということだ。今回、最初に選んだ物件は、特に理由が示されることもなく、ホストに拒絶されてしまったのである。
気を取り直して、自分のAirbnbアカウントをFacebookアカウントに連動させ、別の物件を申し込んでみた。すると、今回は瞬く間に取引が成立した。
なるほど、シェアリングエコノミーとは、単に空いていれば貸すというものではなく、相互の信頼性の上に成り立つものなのである。そこで重要なのは、予約に先立つホストとのコミュニケーションやSNS上でのソーシャルグラフやソーシャルヒストリーだ。
滞在中の話もいろいろあるのだが、ここではそれは割愛して、話は滞在後へと飛ぶ。こうしたPtoPサービスの常として、滞在後には滞在者がホストを評価する。
逆にホストがゲストについても評価する。この相互評価の仕組みが、通常のホテルへの宿泊とは大きく異なる点である。ゲスト評価の内容は、Airbnbのプロフィール上で公開されてしまうのである。
シェアリングvsサービス
Airbnbのように、個人が有している資産や能力を別の個人に対して提供することから生まれる経済活動全般を“シェアリングエコノミー”と呼んでいる。一方、ホテルのように事業体が個人に対してサービスを提供する経済活動全般を“サービスエコノミー”と呼ぶ。
サービスエコノミーは、言い換えれば「持てるものの経済学」である。お金を支払えば、高いサービスを受けられるし、欲しいものは何でも買える。欲しいものは自分で買う世界である。
そこでは、経済力、クレジットヒストリーが重視される。つまり、先立つものが必須なのである。
一方、シェアリングエコノミーは「持たざるものの経済学」である。欲しいものは自分で買うのではなく、他の人たちと共有する。
そのためには、経済力やクレジットヒストリーではなく、シェアリングエコノミーの経済圏で積み上げた信用力、あるいはSNSにおけるリッチなソーシャルグラフやソーシャルヒストリーが重要だ。
Wired誌によると、シェアリングエコノミーの広がりは、Airbnbのような宿泊サービスだけでなく、カーシェアリング(RelayRidesやGetaround)、ボートシェアリング(Boatbound)、タクシーサービス(LyftやSidecar、Uber)、レストランサービス(Feastly)などに広がりつつある。日本においても、宿泊サービス、カーシェアリング、タクシーサービスなどは広がりつつある。
新しい人間関係
こうしたシェアリングエコノミーは、個人と個人をネットでつなげるテクノロジプラットフォームによって支えられているが、それが逆説的に個人と個人の人間的な結びつきを強めているという側面があるという。Wired誌によると、都市化の進展が個人間の信頼関係を希薄化させ、それを補うために契約社会が生まれたのだという。
こうしたシェアリングエコノミーを牽引する起業家は、そのサービスを単なるビジネスとしてではなく、人間関係を再構築という側面でもとらえているという。
一方で、シェアリングエコノミーはその前提として、SNSなどを通じてソーシャルヒストリーの公開が前提となる。それがなければ、筆者がAirbnbで宿泊を拒絶されたように、シェアリングエコノミーへの参加権を得ることができない。
一度、シェアリングエコノミーの経済圏で失敗を犯して評価に傷が付けば、それを回復することは難しい。例えば、Airbnbでひどい客だとコメントされてしまったら、二度とAirbnbで宿を見つけることはできないだろう。
“ソーシャルフィンガープリンティング”という言葉がある。これは、個人のSNS上での振る舞いから個人を特定する技術のことで、個人の認証などで活用しようと実証検証が進められている。
シェアリングエコノミーでは、SNSでの振る舞いに加えて、その経済圏での評価が刻刻と蓄積されていき、それが常に公開されている状態になる。お互いに直接会ったことはなくても、まるで隣近所の人の評判をお互いに知っているのと同じような状況が生じるのである。