三国大洋のスクラップブック

3年かけて生まれ変わった「ティム・クックのアップル」 - (page 2)

三国大洋 2014年09月22日 06時30分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷

 部門間の壁をぶちこわし、内輪もめを辞めさせ、「ハードウェア、ソフトウェア、サービス(の開発と提供)に関わる全員が協力する」ような体制を実現すること。これをほぼ3年でやってのけたというCookの経営手腕が、社外では十分に評価されていないという幹部らのコメント――代表例として現在ナンバー3になったEddy Cueのコメントが紹介されている――、そういう協調体制を作らないと、これからの時代は組織の存続も危ういというCookの危機感なども目を惹く。

 この改革が成功していなければ、「Continuity(“連携”とAppleの日本語ページではなっている)」のような機能は実現できなかった」云々という指摘も記事中にあるが、確かにCookと個別の製品とサービス(=目に見えるもの)が結び付けられることはこれまでほとんどなかった(おそらくApple Watchが初めてのケースだろう)から“過小評価”になりがちなのもやむを得ないことだったかもしれない。

 そういう企業文化の変革を経た現在のAppleでは、たとえば製品開発のロードマップに関するミーティングに、エンジニアやデザイナーだけでなく、財務やオペレーション畑の人間、それに主要な部品サプライヤーの関係者まで参加するようになっているという。

 ちょっと聞くと「根回しが大変そう(=それだけ動きが取れなさそう)」などという感じもしてしまうが、大きな仕掛けを用意してガッツリ稼ぐためにはそうでもしないといけない、ということだろう。また「Jobsの一声でプランが一変」といったことはもはや起こり得ないような感じもする。

 一方で、Cook自身の「カミソリのように鋭い部分」はあまり変わっておらず、金曜日にあるサプライチェーン関連の定例ミーティングに出席しては、相変わらず鋭い質問で部下に冷や汗をかかせてもいるらしい。

新たな幹部の台頭

 この記事で一番意外だったのは、オペレーション担当幹部のJeff Williamsが「Apple Watchに関する責任者を任されている」というところ。Cookの最高経営責任者(CEO)就任を受けてサプライチェーン担当の責任者に昇格していたWilliamsはそれこそ「縁の下の力持ち」的な印象の人物…。

 というよりも、滅多に表に出る機会のない立場の人物で、この人のコメントを目にした覚えはこれまでほぼなかった(製品やサービスの担当には発表イベントがあり、財務担当には決算発表がある。また小売担当責任者のAngela Ahrendts=Burberryの元CEOなどは、そもそも入社自体が大ニュースだったし、最近でも表参道のApple Store開店の時などに話題になっていた)。

 このWilliamsという人物、Cookと大学も一緒(DukeでMBA取得)なら、社会人としての振り出し(IBM)も一緒、しかも健康オタク(fitness buff)というところまで共通しており、オペレーションの細かな部分に関する抜群の記憶力もCookのそれに劣らないらしい。そんな自分の「影武者」のような幹部を責任者に起用したというのは、CookがApple Watchを「自分のプロジェクト」と見なしていることの現れだろうか。

 「われわれは世界で一番優れた製品を作りたいと思っている」というWilliamsのApple Watchについてのコメントは、それこそCookのオウム返しと思えるが、暗にSamsungのことを指して「すでに3~4世代のスマートウォッチを投入しているところもあるけれど、まだ誰も身に付けていない」などというのは、これまで(良くも悪くも)無難なことしか口にしなかった印象が強いApple幹部の中では異例なものにも感じられる。

 そのほか、モバイル決済サービス「Appy Pay」のプロジェクトを率いたというJennifer Baileyも、これまであまり見かけなかった名前――今年に入ってWSJやRe/codeあたりで何度かニュースになっていたようだが、前の職務が「Appleのオンラインストア責任者」ということくらいしかいまだにわからない人物。

 いずれにせよ、Federighiのような目立つ立場の人間以外にも、このBaileyのような幹部が新たに重責を担うようになっている、という可能性も感じ取れる…。そういえば、元Adobe最高技術責任者(CTO)のKevin Lynchが、製品発表イベントでステージに上がり、Apple Watchをデモしていたのに驚いた人も少なくなかったのではなかろうか。

 この記事には2013年3月以降の主立った人事の動き(新規加入や昇格など)をまとめた図も含まれている。これをみると(オレンジ色で示されている)Watch関連の人材がやはり多いのに気付くが、その人材のバックグラウンドがファッション業界とフィットネス/健康関連分野に大別できそうな印象も感じられる。

 また、最近加入が発表されたAnandaTech(ハードウェア評価に定評のあるブログ)創業者(ジャーナリスト)や元NYTimes Magazineのクリエイティブディレクターなど、何をするのかちょっと想像がつきにくい人たちの名前もあってさらに興味深い。また、おしまいの部分には、著名な工業デザイナーで、Iveの友人でもあるMarc NewsonをAppleが雇い入れることにしたことについて、Iveに退社を思い留まらせるためだったのではないかとする元社員の見解もあって面白い。(敬称略)

ZDNet Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連ホワイトペーパー

SpecialPR

連載

CIO
月刊 Windows 10移行の心・技・体
ITアナリストが知る日本企業の「ITの盲点」
シェアリングエコノミーの衝撃
デジタル“失敗学”
コンサルティング現場のカラクリ
Rethink Internet:インターネット再考
インシデントをもたらすヒューマンエラー
トランザクションの今昔物語
エリック松永のデジタルIQ道場
研究現場から見たAI
Fintechの正体
米ZDNet編集長Larryの独り言
大木豊成「仕事で使うアップルのトリセツ」
山本雅史「ハードから読み解くITトレンド放談」
田中克己「展望2020年のIT企業」
松岡功「一言もの申す」
松岡功「今週の明言」
内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」
林 雅之「デジタル未来からの手紙」
谷川耕一「エンプラITならこれは知っとけ」
大河原克行「エンプラ徒然」
内製化とユーザー体験の関係
「プロジェクトマネジメント」の解き方
ITは「ひみつ道具」の夢を見る
セキュリティ
セキュリティインシデント対応の現場
エンドポイントセキュリティの4つの「基礎」
企業セキュリティの歩き方
サイバーセキュリティ未来考
ネットワークセキュリティの要諦
セキュリティの論点
スペシャル
エンタープライズAIの隆盛
インシュアテックで変わる保険業界
顧客は勝手に育たない--MAツール導入の心得
「ひとり情シス」の本当のところ
ざっくり解決!SNS担当者お悩み相談室
生産性向上に効くビジネスITツール最前線
ざっくりわかるSNSマーケティング入門
課題解決のためのUI/UX
誰もが開発者になる時代 ~業務システム開発の現場を行く~
「Windows 10」法人導入の手引き
ソフトウェア開発パラダイムの進化
エンタープライズトレンド
10の事情
座談会@ZDNet
Dr.津田のクラウドトップガン対談
Gartner Symposium
IBM World of Watson
de:code
Sapphire Now
VMworld
Microsoft WPC
Microsoft Connect()
HPE Discover
Oracle OpenWorld
Dell Technologies World
AWS re:Invent
AWS Summit
PTC LiveWorx
吉田行男「より賢く活用するためのOSS最新動向」
古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」
中国ビジネス四方山話
ベトナムでビジネス
日本株展望
企業決算
このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]