イノベーションは従来よりIT業界に限らず市場の急成長を促し、市場のプレーヤー構造に影響を与え、さらなるイノベーションへの連鎖反応を生んできました。クラウドコンピューティング業界はまさにその渦中にいるといえます。
このような業界では、競合に追いつくことを投資の柱に据えてしまうと、市場シェアを守ることさえも難しくなります。従来型のIT資産との連携といったハイブリッドクラウド的な製品やサービスに注力しすぎるのも、一定期間は効果はありますが、永続的なものであるとは言えません。
パブリッククラウドならではのイノベーティブ(革新的)なサービスを生み出し、従来型のIT資産をクラウドに移行するモチベーションを、ユーザー側が自然発生的に持てるようにすること――これが新しいパラダイムシフトにとって最も重要な要件であると提唱します。
イノベーションは、スケーラビリティや技術革新、価格競争力の3点にあると言えます。クラウドならではのイノベーション、代表的なものを次のカテゴリに整理しました。
- ビッグデータ/アナリティクス:プラットフォーム上で簡単に仮想マシン/ストレージを実装することにより、大量のデータを拡張性の高い環境で運用し、高度な分析に活用する。
- モバイルアプリ:スマートフォンなどのデバイスに対しては、レガシーも含めた、多数のデータストアからデータを収集し、短い期間でアプリケーションの開発がクラウド上の環境が適しています。
- ソーシャルアプリ:Twitter、FacebookをはじめさまざまなSNSからのデータを収集し、分析が可能なソーシャル系のアプリケーションもクラウド上での開発が効果的です。
上記のアプリケーションは、もちろんオンプレミスで開発、運用できますが、市場の主たるベンダーのほとんどがクラウド上でサービスを提供しているという現実も改めて認識する必要があります。
プライベートクラウド市場の問題
上記のように、クラウドベンダーのトップ3社のAmazon Web Services(AWS)、Google、Microsoft Azureに代表されるように、価格戦略やサービスのイノベーションが市場をけん引している状況にあり、今後もそのトレンドが促進されていくものと予測されます。
このトレンドで、最も存続の危機に直面しているのは、プライベートクラウドです。企業が総所有コスト(TCO)を真剣に再考をする際、パブリッククラウドの価格がこれだけの速いペースで下がり始めると、プライベートクラウド上で同様の環境を構築し、運用するコストが高いことが問題として表面化してきます。
そうなると、次の標的になるのは、ハイブリッドクラウドの推進事業者になると考えられます。やはり、プライベートクラウドを運用する費用対効果が急激に下がってくる、ということが大きく影響を及ぼします。
上記で説明したように、従来型のレガシーITと何らかの形で混合したIT製品やサービスが完全になくなるとは言えませんが、両方が共存するという理想型は、現在考えられているハイブリッドクラウドモデルとはかなり違う形に変わっていくのでは、と予測しています。