日本が強みとしている点は?
こうした状況ですが、ベトナム政府の今後のICT産業に対する施策を踏まえると、日本が強みとしている点もいくつか見られます。これからのベトナムへのICT投資を検討する際に視点の一つとして、次の事項を考えることもできるかもしれません。
まずは、高度ICT人材養成への協力です。ベトナムでは2020年までにICT人材を100万人にすることを考えていますが、現状は40万人程度です。しかも単に数を増やすだけではなく、2020年時点での100万人のうち80%の人材は、「ASEAN基準をクリアした人材」という、ある程度の質も担保した形での規模の拡張となります。
今回のセミナーではこの「ASEAN基準」が何を指すのかは具体的に示されませんでしたが、例えば、ベトナムではすでに導入されている日本の情報処理技術者試験をさらに拡大するといった方策は、即効性があり費用負担も両国にとって少なくて済む非常に有効な手法だと考えられます。
また、実際の教育体制の構築には費用面、人材面といった問題が考えられるものの、日本での技術者養成の教育システムを導入または活用することができれば、ベトナムにとっては非常に喜ばしい状況でしょう。実際に、日本の高専教育システムをベトナムで活用するといった取り組みなどが行われ始めたところです。
そして、日本の既存システムの輸出も有望だと思われます。他の先進国と比較した際にはまだまだ改善の余地があることを指摘されることもありますが、それでも日本の社会を支えているICTシステムは高度に発達したものであることは間違いありません。
当日、ある情報通信局幹部と、日本におけるICTによる社会インフラ整備の議論をしていたところ、現在、日本企業が有し、日本国内で提供している一連のシステムは、そのままベトナムに提案しても十分検討の価値があるという結論に至りました。
もちろん、これらを支えるための基礎的な社会情報が、ベトナムではまだいくつも欠けていますが、それでも関連事項の整備とともに提案することは日本企業にとっても魅力的な案件となるのではないでしょうか。
「日本のインフラ輸出」という時には、必ずしも発電所やプラントといったものに限られるものではなく、普段のわれわれの日常生活を見渡してみても、十分ビジネスになる可能性があることを改めて感じることができる議論でもありました。
現在、安価な労働力を活用したオフショア開発が注目を浴びているベトナムですが、本年は、ベトナムとの産業連携に関して新しい様相を見せる年になるかもしれません。
- 古川 浩規
- インフォクラスター
- 内閣府及び文部科学省で科学技術行政等に従事したのち、平成20年に株式会社インフォクラスター、平成22年にJapan Computer Software Co. Ltd.(ベトナム・ダナン市)を設立。情報セキュリティコンサルテーション、業務系システム構築、オフショア開発を手掛けるほか、日系企業のベトナム進出に際して情報システム構築や情報セキュリティ教育等を行っている。資格等:国立大学法人 電気通信大学 非常勤講師、日本セキュリティ・マネジメント学会 正会員、情報セキュリティアドミニストレータ、財団法人 日本・ベトナム文化交流協会 理事