日本・総務省がベトナムへ提案する3つの柱
それでは、日本・総務省はどのようなものを中心にベトナムに提案しようとしているのでしょうか。当日の資料などから次の3つが読み取れます。
まず1つ目は「モニタリングシステム」。特に自然環境および自然災害を監視するためのシステムを想定しており、プラント、ビル、河川、港湾といった場所の監視を具体的な対象としているようです。先の情報通信局副局長の発言のみならず、今回、会場のあちこちで耳にすることが多かったITSについても、ベトナム側からの期待の大きさを感じることができました。
モータリゼーションの黎明期でもあるベトナムにおける渋滞対策が喫緊の課題であることは、政府当局も十分感じているのだと思います。
2つ目は「テレビ番組に関する協力」。これまでも「パートナー」という日越合作のドラマが作られたりしましたが、日本のドラマを積極的に輸出することや、製作側への協力まで範囲を広めるとともに、html5を活用したハイブリッドキャストといった次世代放送サービスまでも具体的な対象としているようです。
テレビコンテンツの提供については、すでに韓国の放送事業者が大々的に提供を行っているため、日本からの今後の動きには私も非常に注目しています。
3つ目は「郵便分野での協力」。ベトナムでは残念ながら普通郵便に対する信頼度がそれほど高くなく、国内発送であってもEMSを活用することが一般的であるため、この分野で貢献する事項は多くあるのでしょう。当該セミナーでも、当日は郵便分野での協力に関する会合のみ別途企画されていたことからも日本の民間企業からの各種提案を待ち望んでいるのかもしれません。
必ずしも日本だけに期待しているわけではない
ベトナム側の事情としては、ベトナム国内のICT産業の成長をけん引しているのがハードウェアの販売であるという点も見逃すことができません。そしてこの点で大きく貢献しているのは、サムソンやインテルといった企業が主です。日系ではキヤノンがベトナムの各地に工場を有していますが、ベトナムからの輸出による貿易黒字への貢献という点では、SamsungやIntelといった企業ほどではないようです。
一方、ソフトウェア分野については、以前に比べて日本との取引が成長の柱となっています。この分野については、ベトナム側経営者層の日本での勉学および就労の経験がいかんなく発揮されており、この傾向は今後も続くでしょう。
ただし、例えばベトナムで取り組んでいる地上波のデジタル化ではヨーロッパ方式が採用されていたり、ETC(電子料金収受システム)では各国の方式が数多く採用されていたりというのがベトナムの現状です。特にETCについては「各国の方式の上に抽象的な基盤を整備して、すでに導入されているETCシステムの差異を吸収することはできないか」との要望も耳にしたほどです。
日本の製品に対する強い信頼感と導入意欲はベトナム側にもありますが、必ずしも「まずは日本製を最優先に」と考えるほどではなく、他国の状況も見極めつつ日本製品に対する冷静な判断を下しているという印象があります。