ガートナー ジャパンは3月9~10日、「ガートナー エンタープライズ・アプリケーション&アーキテクチャ サミット2015」を開催。初日の基調講演にGartnerリサーチバイスプレジデントであるMark Driver氏が登壇し、「現状でもIT部門管轄外で発生するIT投資、パワーが38%に及ぶというデータが出ており、2017年には50%へと拡大するとみられている。IT部門がコントロールできない事案が増え、それが指数関数的に拡大することになる。もう過去に戻ってこの流れが変わることはあり得ない。IT部門の役割も、従来の管理から(ITが及ぼす変化に対する)調整と促進へと変化している」と世界中に起こるデジタル化でIT部門の役割が大きく変化していると指摘した。
そして、「IT部門には『堅牢性』と『流動性』という相反する要素が求められる。相反する要素をあわせもった“バイモーダルIT”を目指すべし」と新しいスタイルのIT部門を目指すべきだと提言した。
デジタル化はリアルワールドにも多くの変化
Driver氏は、「今回のサミットの全セッションには、革新・変革・加速という3つのコンセプトがある。どのセッションを聞いている時にも、この3つのコンセプトを頭に置いて聞いてほしい」と話してから自身の講演をスタートした。
まず、革新として「ITで革新を進めるというのは決して珍しいことではない。しかし、時期によって革新の中身が大きく変化している」ことを説明した。
Gartner リサーチ バイスプレジデント Mark Driver氏
「25年前であれば、ITの革新は効率を上げることだけに集中していた。すべてのコンピューティングリソースは効率を上げるために使われていた。それが25年前以降は、コンピューティングは分散型となり、インターネットによってコンピュータは効率化だけでなく、ビジネスプロセス革新にも利用されるようになった。例えばインターネットを使ってモノを売るという事例がその典型だ」
この革新の最新が現在起こっているデジタル化となるが、「ネットでモノを売るという変化は、技術を活用しているに過ぎなかった。それに対し、現在起こっているデジタル化による変化は、全てがアナログからデジタルへと変わってきている。音楽を例に取るとわかりやすいが、単にネットを使ってアナログのCDを販売するのではなく、販売する音楽そのものがデジタル化されたことで、従来とは全く異なる大きな新しい世界が生まれている。デジタル化はリアルワールドにも多くの変化を及ぼすものとなっている」と説明し、こう続けた。
「これは企業間取引の製造業の世界でも起こっている。玩具であれ、航空機であれ、製造業は製品開発にデジタルデータを活用し、デジタル上でシミュレーションしている。トラックで配送する際にもセンサや電子機器が活用され、そこから発生する情報でビジネスが進展している。デジタル化でたくさんの新しいことが生まれている」と、これまでにない変化を及ぼす革新がデジタル化だと説明した。
今後、“モノのインターネット(Internet of Things:IoT)”化の進展によって「現行では6500億のデバイスが接続され、その波は加速して何兆というレベルまで、インターネットに接続されたデバイスの数は増えていくだろう。それに伴って、デジタルファーストという戦略は必須なものになる」とデジタル化が不可欠になるとした。
さらに、「ユーザーがモバイルデバイスを持って移動し、その中でショッピングを楽しむことでデスクトップPCの前で行っていた時の何倍もの情報が生まれる。それをリアルタイムでビッグデータとして分析することも可能となる。昔はバッチ処理が当たり前だったものが、クラウド、インメモリキャッシングで大きく変わる。誰とどう結びつくのかが明らかになることで、新しいビジネスチャンスが生まれる」という変化を紹介した。
ただし、こうした新しいITの世界はIT部門管轄というよりは事業部門発で生まれることが多い。「事業部門はIT部門の助けを借りることなく、SaaSを活用することで目的を実現してしまう。これまでとは異なるIT投資となり、IT部門で発生するIT投資が増えてくる。現行でも38%がIT部門外から発生しており、2017年には50%がIT部門外から発生するという推測となっている」
IT部門がコントロールできない事例が増えてくることになるが、「この傾向はPCが誕生した時から発生していたものだ。その傾向が指数関数的に増えている。もはや過去に戻って、IT部門が全てをコントロールする時代が起こるとは考えにくい」とIT部門が全権管理する時代は終わりつつあると断言した。
では、IT部門はどんな役割を担うべきなのか。それに対しDriver氏は、「コントロール(管理)ではなく、コーディネーション(調整)。そして変化を促進していくことがIT部門の役割だ」と答えている。
また、IT部門には「堅牢性」と「流動性」という相反する要素が必要になるとも指摘。堅牢性とはセキュリティなど確実に、安全、安心にITを活用していくための姿勢であり、流動性とは革新、アジリティといったものを取り入れた新しい技術を取り入れる姿勢を指す。