『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版から)
そんなことをぼんやりと考えていたところ、1つ面白いものが目にとまった。しばらく前から、生活の抜本的な見直しを進めているというMalikが、日本発の世界的ベストセラーになりつつある『The Life Changing Magic of Tidying up』(原題:「人生がときめく片づけの魔法」)のことに触れている。
近藤麻理恵という著者の「ものを手放すことは新たなものを手に入れることよりもさらに重要だ」(”Letting go is even more important than adding.”)などという言葉を抜き書きし、あるいは自分がほんとうは必要としていないもの(近藤女史流にいえば「心がときめかないもの」)を処分するのに使ったウェブサービス/アプリのことなどをかなり詳しく書き記している。
・Marie Kondo is right. Clean up is good for the soul - OM.co
なお、米国では2014年秋に発売された『The Life Changing Magic of Tidying up』がすでに33万部を超える(翻訳物としては異例の)ヒット作となり、日本と同様に熱心なファンも生まれ、一部では「片付けをする」「いらないものを処分する」といった意味で「Kondo」と言葉が動詞として使われるようにもなったといった話を、The Wall Street Journalが2月下旬に記事にしていた。
・Marie Kondo and the Cult of Tidying Up - WSJ
この記事の中には、例えば「米国の多くの地域で郊外から都市の中心部に移り住む人々が増えている」とか、「全米で寄付(donation)にまわされる衣服や家具などの数が大幅に増えている」といった社会的な流れがあり、それと「片付け法」に記された主張がうまくマッチしていたせいで、書籍のヒットや片付け法自体の流行につながった、といった説明もある。
モノを手に入れること、所有することの意味が依然として大きな社会が世界全体ではまだたくさん残っているかと思う。けれども、モノを手放すことで代わりに得られる「形にならないもの("intangible")」の方がより大切になってきている社会も一部には出てきている。何年か前から再三いわれてきている「シェアリング経済」といったものも、これと同根の事象かもしれない。
片付け法の米国での予想外のヒットは、そうした大きな変化の流れのなかで生じた潜在ニーズをうまくすくい取ることができた、その結果といえるかもしれない。よく「内向き志向になっている」などといわれる日本の若い世代のなかからそんなニーズに応えられる発想が生まれてきたというのは、ちょっと頼もしい話と思える。
そうしたアイデアが今後どこまでビジネスとしてスケールすることになるかはまだわからない――検索すると「近藤女史が自分の代わりに片付けのノウハウを直接顧客に伝える指導員の育成に乗りだしている」といった話も見つかるが、それこそソーシャルメディアやアプリといったさまざまなツールを使って上手にコミュニケーションをとっていけば案外大きな広がりになるのでは……といった思いも浮かぶ。