情報セキュリティベンダーが相次いで自社の製品やサービスを連携させた統合セキュリティソリューションを打ち出している。その市場競争はまさに「総取り合戦」といえそうだ。
トレンドマイクロが注力する統合ソリューション
トレンドマイクロが先ごろ、企業向け事業戦略についての記者説明会を開いた。同社のEva Chen代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)は2015年の戦略として、これまで推進してきた「サイバー攻撃(Cyber Threats)」「コンシューマライゼーション(Consumerization)」「クラウドと仮想化(Cloud & Virtualization)」といった“3つのC”分野向けの製品・サービスをさらに強化していくと説明した。
同社ではそれぞれの分野向けの製品やサービスについて、サイバー攻撃向けを「カスタムディフェンス」、コンシューマライゼーション向けを「ユーザー保護の徹底」、クラウドと仮想化向けを「クラウド&データセンターセキュリティ」と分類している。
2015年のそれぞれの強化内容としては、カスタムディフェンスでは「脅威の根本原因を特定し、自社内で標的型攻撃を早期に検知する“カスタムシグネチャ”を自動生成するソリューションの提供」、ユーザー保護の徹底では「Microsoft Office 365向けセキュリティなど幅広い環境への対応によるビジネスの拡大」、クラウド&データセンターセキュリティでは「新たな技術や環境への迅速な対応」といった点に注力していく構えだ。
そうした個別の取り組みもさることながら、筆者がとくに注目したのは、同社がこれから目指す姿として示した統合セキュリティソリューションである。その内容は、3つの分野を連携させて統合管理することにより、あらゆるセキュリティの脅威から企業を包括的に保護しようというものだ。(図参照)
トレンドマイクロが注力する統合セキュリティソリューション
その要となるのは、セキュリティ情報のビッグデータを活用したクラウド型セキュリティ技術基盤「Trend Micro Smart Protection Network(SPN)」である。SPNを軸に同社が提供している製品やサービス、さらには運用、導入支援を合わせて高度な“セキュリティインテリジェンス”を提供していくとしている。
統合ソリューションで変わる情報セキュリティ市場
同社の大三川彰彦取締役副社長は、この統合セキュリティソリューションに対する取り組みについて、次のように意気込みを示した。
「企業のセキュリティ対策はこれまで、エンドポイント、ネットワーク、サーバに対して、複数のセキュリティベンダーによる複数の製品やサービスが適用されてきた。しかし、ますます高度化するセキュリティの脅威に立ち向かっていくためには、もはや個別の対応では間に合わなくなってきている。従って、これからはいかに全体を統合管理して、あらゆる脅威に素早く対応していくかがセキュリティ対策の“肝”になる。当社は今後、企業にとって不可欠な統合セキュリティソリューションを徹底的に追求していく」
注目されるのは、企業のセキュリティ対策はこれまで適用分野ごとに複数のセキュリティベンダーが製品やサービスを提供するケースが大半だったが、これから主流になり得る統合セキュリティソリューションは1ベンダーが独占して提供する形になる可能性が高いことだ。まさしく「総取り合戦」である。
統合セキュリティソリューションを自社の製品やサービスだけで提供できるセキュリティベンダーは限られるが、トレンドマイクロのほかにもシマンテックやソフォスなどが、新たな事業戦略として注力していくことを表明している。いずれも、製品やサービスを単に連携させるだけでなく、セキュリティ情報のビッグデータを活用できる能力を生かせるのがミソとなっている。
ポイントソリューションから統合ソリューションへと移行する可能性が高まってきた情報セキュリティ市場は今、新たなステージへのターニングポイントを迎えているといえそうだ。
トレンドマイクロのEva Chen代表取締役社長兼CEO(右)と大三川彰彦取締役副社長