前編に引き続き、主要テクノロジ企業のM&A戦略をまとめた。
5.SAP:買収企業を組み込む
SAPは一貫して、エンタープライズ市場における競争力強化につながる買収を行っている。
「SAPがこれまでに買収した企業は、エンタープライズ向け事業が強いものがほとんどだった」とWelsh氏は述べている。「そうなっている理由は、SAPが自社のブランドの中核についてしっかり理解しているからだ」
SAPが小規模な買収を行うことはほとんどなく、特定の市場で足がかりを得るために役立つ企業に、大規模な投資をする傾向がある。Concur、Airba、SuccessFactors、Sybaseなどの買収が、その代表的な例だ。
SAPはOracleと比較されることが多いが、両社のM&Aに対するアプローチには、いくつか重要な違いがある。第1の違いは、買収した企業をどう組み込んでいくかだ。
「SAPがOracleと違うところは、買収した会社を取り込み、SAPの製品群に組み込んでいくことだ」とAntonelli氏は言う。
Dufour氏は、SAPは特定の市場における自社の領域を広げるか、特定の製品ラインを強化する製品を求める傾向が強いと述べている。これは競争力を維持するためだが、SAPはクラウド市場での買収を続けていく必要があることを理解しており、これには大きな費用がかかる可能性が高い。
「SAPは今後、クラウドへの移行を推進して成長の原動力を一新すると同時に、イノベーション指向の買収を行ってクラウド関連のソリューションを拡大していくと思われるが、これには何件かの大型買収が必要となる可能性が高く、買収合戦に発展することも考えられる」とDufour氏は言う。
同社は最近、売上高と営業利益の減少を経験したが、現在はクラウド事業の売上高が増え始めており、これはこの市場での買収によるところが大きい。これが同社の今後の方向性を示しているとすれば、SAPは近い将来、より多くのクラウド企業の大型買収を試みる可能性が高い。
6.Apple:サイレントキラー
ほとんどのテクノロジ評論家は、AppleのM&A戦略について尋ねられても、「戦略などない」と応えるだろう。
その理由は2つある。第1は、Appleはバランスシートの状態が極めて良好な割には、あまり買収は行っていないということだ。
「Appleの事業は現在非常にうまくいっており、利益を上げるのに忙しくて買収を行っている暇などないのだ」とSakoda氏は言う。
また、Appleは買収をする場合でも、それをおおっぴらにすることはないし、計画を公表することもない。Antonelli氏は、これはAppleの戦略的な振る舞いかも知れないと述べている。
「ある意味では、これは賢明だと言える。なぜなら、Appleがその企業を買収した理由についての憶測自体が、ある種の広告費不要の広告になるからだ」とAntonelli氏は言う。
AppleのM&A戦略は、優秀な人材を雇い、素晴らしい製品を作る、という同社の戦略と密接に結びついている。Bartels氏によれば、Appleはソフトウェア企業とハードウェア企業の両方に対して小規模な投資を行う傾向があり、この方針は今後も続くと考えられるという。もちろん、この方針はSteve Jobs氏の、デザインとシンプルさを重視するという方針から生まれたものだ。