たとえば、グローバル経営者の68%はIIoTでビジネスモデルが変化する、または、新しい製品やサービスが投入されると回答しているのに対し、日本では16%にとどまった。IIoTがもたらす効果としては、効率化や生産性向上なのか、新たな収益源の創出なのかを聞いたところ、グローバルでは57%が新たな収益源の創出としたのに対し、日本では68%が効率化や生産性向上だと答えた。
IIoTが恩恵を受ける業界についても、グローバルでは小売りや製造、ヘルスケア、エネルギー、運輸、通信、IT、公共サービスなどがほぼ満遍なく恩恵を受けると答えたのに対し、日本では、ITや小売りなど一部が恩恵を受けるにすぎないという結果となった。
この調査結果を踏まえ、清水氏は「製造業のなかで、モノとサービスにより成果を売るビジネスにシフトした事例でよく知られているのはGE(General Electric)やMichelinだ。国内でも、IIoTを活用した新しい事業モデル展開に向けた取り組みにチャレンジすべきだ」と強調した。
GEは、航空機のエンジン製造から、エンジンの遠隔監視による保守サービス、センサを使った航空機全体の予防保全、さらに運行計画の最適化までビジネスをシフトさせてきた。エンジンが8兆円市場であるのに対し、航空機全体のメンテナンス市場は20兆円、航空会社ビジネスは78兆円規模。IIoTの活用でより巨大な新市場に参入できることになった。
Michelinはタイヤ製造から、タイヤを使った整備やコスト最適化サービスにシフトし、さらに、走行距離に応じてタイヤ使用料を支払う“Tire as a Service”という新サービスまで展開した。タイヤ市場の規模は6兆~7兆円だが、運用コスト最適化サービスやタイヤの使用料を支払うサービスを利用する輸送業界の市場規模は50兆円。Michelinもサービスにシフトすることで、より大きな市場に参入することになった。
清水氏によると、日本企業が取り組むべき3つのチャレンジは、1つは、CEO自らがIoTをビジネスのアジェンダとしてとらえること。2つめは、成果を売るビジネスへの移行を進めること。3つめは、パートナーやアライアンスなど外部の力を活用することだ。
CEOの参画については、特に国内の経営者はITを最高情報責任者(CIO)の責任とみなす傾向が強いため、あらためて、経営課題として捉えることを訴えた。事業部門の管理指標としては、モノ売りビジネスで用いられがちな「売り上げ」ではなく、単年度では赤字でも長期では成果が出る「サービス受注残高」を注視するとよいとアドバイスした。サービス受注残高を管理指標とするのはGEのCEOであるJeffrey Immelt氏にならったものだという。
このほか、組織を回す仕組みとしては、GEの「FastWorks」やGoogleの「10x Thinking」、ヤフーの「爆速経営」のように新たなアイデアを高速で実践する「リーンスタートアップ」の手法も参考になるとした。
2つめの成果を売るビジネスへの移行については、モノを売るためのワンストップのインテグレーションに加え、成果を売るためのサービスモデルの開発、組織体制の構築が必要だ。ワンストップのインテグレーションでは営業とエンジニア、コンサルタントが一体的に活動する必要があるが、成果を売るサービスモデルでは、適切なサービスを提案するためのデジタルエキスパートが加わる必要があるという。
3つめの外部の力の活用については、ビジネスとテクノロジを結びつけるパートナーを探すことが重要となる。
最後に清水氏は「国内では特にそうだが、IIoTの活用を技術面からのみとらえがち。IIoT活用は技術の変化ではなく、事業モデルの転換であることを理解することが重要」と訴えた。

Michelinは、6兆~7兆円の既存市場に加えて輸送業などの50兆円市場に参入することになる