10月12日に670億ドルでEMCを買収する計画を発表した米Dellが10月20日、本拠地のあるテキサス州オースティンで開催する自社イベント「Dell World 2015」に合わせてプレス向けにセッションを設けた。主として記者からの質問に答えるもので、約30分、創業者でCEOのMichael Dell氏が幹部とともにステージに立った。
売上高800億ドルの非公開企業
まず金額の面からも業界を驚かせたEMCの買収計画について、Dell氏は「サーバ、ストレージ、仮想化、PCの4分野で市場をリードする企業になる」とその目的を語る。製品に加えて、EMCが強みとしてきた大規模企業にDellがアクセスでき、Dellが強みとしてきたSMBと途上国にリーチできるという市場の拡大も挙げた。
また、EMCとDellが共同でイノベーションエンジンとなるほか、Dellが世界的に敷くサプライチェーンも活用でき、合計の売上高800億ドル以上の企業が実現するスケールのメリットも得られるとした。
Michael Dell氏
「(合併後に誕生する企業は)GartnerのMagic Quadrantsで22のカテゴリでリーダーのポジションを持つ。これが非公開企業の形で運営される」とDell氏。Dellは2013年に株式非公開化を果たしているが、その目的として短期的な業績に左右されずに長期的な戦略を敷いて運営していくとしている。
一方で、額も規模も巨大な今回の取引には疑問もつきまとう。DellがEMCを買収して800億ドル企業を目指す一方で、ライバルのHewlett-Packard(HP)はまもなく分社化を完了させる。
これについて聞かれたDell氏は、「(HPとは)企業の進化について視点が異なる」と述べた。自分たちの視点が正しいと信じる根拠としては、(1)スケール(PCでもデータセンターでもボリュームが大切)、(2)PC、スマートフォン、IoT端末とデバイスとデータの爆発が起こっており、デバイスからデータセンターまでのエンドツーエンドが重要になる、(3)顧客は取引する企業の数を減らしたがっている、の3つを挙げた。
合併は大きなものとなるが、買収があくまで計画である現時点では具体的にいえないことも多い。Dell氏はアインシュタインの大統一理論(EMCはアインシュタインの方程式E=MC2と同じ)にかけて、「まずは今回のDell Worldでバージョン1の統一理論を話し、買収完了時にバージョン2を説明したい」とした。なお、EMCとの合併作業にあたってDell側を代表する担当者は、今年初夏にCOOに就任したRory Read氏となることが決定している。
パブリッククラウドへの脅威?--「ノー」
DellとEMCの合体を、「Amazon Web Services(AWS)に代表されるパブリッククラウドの脅威に対する回答なのか、それともエンタープライズIT市場の縮小に対する回答なのか」という質問に対するDell氏の答えは「ノー」の一言。両方とも違うとした。
「われわれは、できるだけコストを抑えながらインフラのデジタル変革を遂げるというCIOが抱える課題、仮想化とハイパーコンバージドへの移行、という顧客の課題に対応する。いわば新しいITの波であり、これを実現できる企業が生き残る」とDell氏。
同日、決算発表を行ったEMCのVMwareは、EMCとともに「Virtustream」としてクラウドサービス事業をスピンアウトさせることを発表した。これについては、エンタープライズ領域で企業のワークロードのうちパブリッククラウドが占めるのは10分の1程度とした上で、VirtustreamはSAPなどのミッションクリティカルなアプリケーション向けだとした。
Dellのクラウド戦略については、エンタープライズソリューションズを率いるMarius Haas氏が「クラウド事業者やウェブ技術プロバイダーのほとんどがわれわれの顧客だ。われわれはこれらの企業にとってサプライヤーでありパートナーだ。顧客と競合するよりも顧客をエネーブルするエネーブラーでいたい、これがDellの哲学だ」と説明、Dellがこれら顧客企業と対抗するようなパブリッククラウドを開始する計画はないことを示唆した。
一方、ハイパースケール企業向けの事業は「Dellの中でもっとも成長している事業。特に石油・ガス、リサーチなどの業種でめざましく、顧客がやりたいことを実現するのを可能にしている」とした。