人材育成の新手法「アクティブラーニング」

効率性の追求が変革の機会を奪う--「定型硬直」に効く“ワカモノ”の条件 - (page 5)

得能絵理子

2016-10-02 07:00

 高知県に城西館という老舗旅館がある。140年の歴史があり、楽天トラベルの宿泊総合ランキングでも、中国、四国エリア第1位となった実績のある旅館だ。 長く続いている老舗は、要所で変化を受け入れている。だから生き残ってきているのだ。 この老舗旅館でも、お土産物コーナーはルーティン化しつつあった。 そこで34歳の若手担当者に売り場がまかされることになった。

 高島田さんは、29歳の時、ECショップ(ネット通販部門)をまかされた。会社としても初めての部門である。誰も教えてくれる人がいない。一人であれこれと試行錯誤した。これが良かった。能動的に挑戦する姿勢が身についたのだ。時間はかかったが、なんとか黒字化が見えるところまでやってきた。

 そこでさらなる大抜擢が続いた。旅館内の売店部門も任されることとなったのだ。34歳の時である。 さまざまながんじがらめの定型がそこにはあった。しかし、通販部門での経験から、高島田さんには挑戦することを厭わない思考回路ができあがっていた。 既存の土産物ではなかなか売れない。汗をかかなければよい土産物コーナーは作れない。ではと、しんどいことを承知で自社開発のお土産物を作ろうと動き始めた。

 城西館は、地元の有名旅館。その名前を使えば、さまざまな事業者がコラボレーションをしてくれるはず。 自ら足を使って高知中の生産者を訪問した。生産者の現場に足を運び、共に商品開発ができるパートナーを選んでいった。

 そして出会ったのが高知県大豊町の「銀不老」。銀不老とは、この地にしか生えない黒豆で、村人達が、「長生きにつながる豆」として何世代も守り抜いてきた豆だった。ストーリーがいい、これを村人達と一緒に守り育てていこう、と決まった。


 旅館のシェフを使っていろいろなスイーツ開発に取り組んだ。 そうしてでき上がったのが、世界に一つしかないオリジナル商品、「銀不老大福」だった。 昔ながらの大福ではなく、今どきのスイーツ開発の技術を使い、東京のおしゃれレストランでだしてもおかしくないスイーツに仕上がった。 定型にこだわらない若手責任者だからこそ、やりとげられた仕事だった。


 結果、この商品は大当たりした。「地元の名旅館」×「村人の不老の黒豆」 が受け、新聞や雑誌がこぞってとりあげた。さまざまな大会でも賞をとり、その後、JALのファーストクラスのデザートにも使われるほどになった。 高島田さんは、一つの商品開発だけに満足せず、1年足らずで売店の商品を3分の1も入れ替え、8000万円足らずであった売り上げを、倍の1億6000万円にまで拡張させることに成功した。

 先日、その旅館の売り場を見学したが、宿泊客でいっぱいでどんどん商品が売れており、私もついつい手が伸びて、お土産を複数買ってしまった。魅力的なものがいっぱいあったからだ。

 どんなビジネスモデルも最後は定型硬直を引き起こす。ビジネスモデルでなくても、社内にはさまざまな「定型硬直」が会社の成長を妨げている。 広告の方法、会計の方法、出勤管理の方法、採用の方法などなど。 しかし、若い世代なら、「型」に向かって挑戦できる。

 任せるべき若い世代の条件は

  1. 「能動的」であること
  2. 「学ぶ力」があること

 この2つだ。

 定形硬直は直さなくても死にはしない。既存のやり方である程度回っているので、重要度は高いが緊急度は低い。正直、既存の方法を踏襲したほうが楽でもある。そうした課題に取り組むには、自分で考え行動する姿勢、つまり「能動性」が不可欠である。

 そしてこのタスクには、正解を教えてくれる先輩はいない。既存を進化させる仕事なので、トライアル・アンド・エラーを繰り返しながら自分で学び、成長する資質「学ぶ力」が重要なのだ。

 定型硬直をおこしたゾンビを見つけたら、若い世代を「ゴーストバスター」に任命しよう。 能動的に挑戦し、学びながら軌道修正し、確実に結果へと導ける人材があらゆる会社で求められている。 能動的に挑戦する「アクティブ・ラーナー」は、実は定型への挑戦で育てることができるのだ。


得能 絵理子
早稲田大学卒業後、株式会社アクティブラーニングに入社。「能動性喚起(アクティブラーニング)」をテーマにキャリア育成、企業改革、地方自治体改革のプロジェクトなどに従事。また、クリエイティビティやチームワークを始めとするヒューマンスキルも企業や教育機関で指導。日経新聞社主催セミナーや、日経BP社ビズカレッジPREMIUMで講師を務めるなど、数百名を超える参加者も能動的に巻き込むワークショップは定評あり。

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