スマートフォン用アプリは、クラウドを活用したサービスの斬新さ、利便性、シンプルな操作性などが評価され、スマートフォンのみならず、パソコン、エンタープライズシステムにも大きな影響を与えた。しかし、時間が経過するにともない競争過多だったこともあって、有料サービス化に苦慮する企業が多いことも事実である。事業戦略の見直しや、経営陣交代となる企業も多い。
そんな中にあって創業者が最高経営責任者(CEO)としてビジネスを続けているのが米Boxだ。日本で大企業への導入が進み、共同創業者でCEOであるAaron Levie氏は、「さらに知名度をあげ、パートナー企業をさらに増やし、今後はプラットフォームベンダーとなる」と宣言する。先日は、IBMと協力してワークフローを自動化する製品を発表した。同社がプラットフォーム企業を目指すのはなぜなのか、Levie氏に聞いた。
2007年時点でエンタープライズビジネスのベンダーになることを選択
--スマートフォン、タブレットが普及し始めた時期に、Boxをはじめ、アプリケーションサービスを提供する事業者が何社も登場しました。エンタープライズアプリケーションベンダーが、「使い勝手を考え直さなければならない」と口を揃えるなど、IT業界に大きなインパクトを与えたと思います。
しかし、それから時間が経ち、スマートフォン向けサービスを提供していた企業が事業戦略の見直し、経営陣の交代を行う企業が増えています。その中にあって、Boxは順調に成長を続けていますが、その要因はどこにあるのでしょう?
Box Inc. 共同創業者兼CEO Aaron Levie(アーロン・レヴィ)氏
それは僕の頭がいいから(笑)。ごめんなさい、これは冗談です。
当社が成長しているのは、2007年時点で事業戦略をエンタープライズ向けで行くと選択したからだと思います。2007年まではコンシューマ、エンタープライズどちらに進むことも可能だと思っていました。元々、当社のDNAはコンシューマ向け製品にあります。ですから、コンシューマ向け製品を作るベンダーになるという選択をする可能性もありました。しかし「長期的に成長し続けていくことができるのか?」という視点で考えると、コンシューマー市場では難しいという結論になりました。対してエンタープライズ市場では長期的に売上をあげていくことができるビジネスモデルを描くことができたのです。
--エンタープライズのユーザーは、コンシューマーよりも要求が厳しい面もあると思いますが。
もちろん、エンタープライズユーザーは我々に高いセキュリティを持っていること、堅牢なシステムであることなど厳しい要求を求めています。主なニーズとしては、第一セキュアであること。第二にグローバルビジネスをしている企業向けのものは特に、使い勝手が良いこと。3番目には大きな企業であればあるほど多くのアプリを使っています。
どのアプリとも連携できるサービスであることが求められます。この3つの条件に合致するサービスを提供しているのは我々Boxだけです。だからこそ、Boxはエンタープライズ市場でも支持を受けたのだと思います。
ただ、「我々はもうエンタープライズ向けサービスしか作りません」と言うつもりはないんです。そういう黒白をはっきりさせることはIT市場において意味がないことだと思うからです。ご存知のように、現在でもメインフレームを利用している企業もあります。古いテクノロジが一夜にして消えてしまうことはないでしょう。新しいテクノロジ、古いテクノロジが混在しているのが企業の実態だと思います。
古い技術を使い続ける中で、何らかの問題点を感じる時に新しい技術を活用し、新しいユースケースを作り始める。その際の新しいテクノロジーはコンシューマー向けのものからスタートすることが多い。コンシューマー向けからスタートしたけれど、エンタープライズで利用する品質を持っていれば、古いテクノロジだけでは実現できなかった新しい価値を生み出すことになるのです。
日本で実施した富士通との提携は、まさにそういうケースだと思います。富士通は自社で持っているソリューションに、新しいテクノロジ、アイデアを加えることで新しい価値を生み出すことができると考えた。そしてそのパートナーとしてBoxが適していると判断して頂くことができたのだと思います。