「海のF1」とも呼ばれる世界最高峰の国際ヨットレース「America's Cup」。その予選最終戦「ルイヴィトン・アメリカズカップ・ワールドシリーズ福岡」が11月19~20日に開催された。2017年5月から6月にかけ英国領バミューダ諸島で開催される本戦に向け、日本を含む6カ国のチームがアジアの海で初めて熱い戦いを繰り広げたのだ。
優勝したのは英Land Rover BAR。本戦で、ディフェンディングチャンピオンである米国の「Oracle Team USA」と対戦することになった。日本からはソフトバ ンク・チーム・ジャパンが出場したが、5位に終わった。
風の力だけで最高50ノット(時速約92.6km)ものスピードに達するヨットを、5人のセーラーが巧みに操る。セーラーの強靱なフィットネスと、風を読む経験と勘で勝利する時代はすでに過去のこと。今はデータを駆使し、科学とITの活用が勝利を左右するのだ。
「ルイヴィトン・アメリカズカップ・ワールドシリーズ福岡」の様子
1000個のセンサからの1日500ギガバイトものデータを活用する
1851年に始まったAmerica's Cupは、世界で最古の国際スポーツ大会と言われている。英国で行われた第1回の大会で勝利した米国チームのヨット「アメリカ号」がカップの名前の由来だ。このAmerica's Cupへの挑戦に執念を燃やしてきたのが、Oracleの創業者で会長 兼 CTO(最高技術責任者)Larry Ellison氏だ。長らく米国から出たことがなかったAmerica's Cupは、1983年にオーストラリアに持ち去られる。その後はスイスやニュージーランドの手に渡りなかなか米国には戻ってこなかった。米国の名前がついたカップを奪還する。そのために多額な私費を投入し、挑戦してきたのがEllison氏なのだ。
2010年開催の33回大会で念願がかない、Ellison氏がオーナーとなったチームUSAがカップを奪還する。防衛戦となった2013年の34回大会決勝は、Ellison氏の地元サンフランシスコで開催された。挑戦艇とのマッチレースで1勝8敗ともう後のないところまで追い詰められたチームUSAは、そこから奇跡の8連勝で大逆転し防衛に成功する。ちなみにここまでレースがもつれたためにレース日程が延びて、2013年のOracle OpenWorldで、初日に続き2度目の登場となるはずだった3日目の基調講演を、Ellison氏はヨットレースを優先し「ドタキャン」することになったのは記憶に新しい。
2013年の大会を大逆転で制し、America's Cupを掲げるOracle 創業者で会長 兼 CTO Larry Ellison氏
2010年にチームUSAが勝利したころから始まっているのがIT技術の活用だ。ヨットの設計のために、構造シミュレーションなどでITシステムを駆使するようになったのだ。さらに前回大会でクローズアップされたのが、IoT的なアプローチだ。ヨットに数多くのセンサを取り付けてさまざまなデータを取得。それらを分析しヨットの設計やレースの戦術に大いに活用したのだ。これは、スポーツITの先駆けとも言えるだろう。
センサは船体だけでなく船を操るセーラーにも装備され、個人ごとのバイタルデータを取得し分析している。その結果、体力に応じた適切な操船が行われているのだ。今回の35回大会では、さらにITやデータ活用が加速している。