アメリカズカップ

最先端ITを駆使して勝つ--ラリー・エリソンが執心するAmerica's Cup - (page 2)

谷川耕一 羽野三千世 (編集部)

2016-11-25 07:00

 チームUSAのゼネラルマネージャーでCOO(最高執行責任者)のGrant Simmer氏は、1983年からAmerica's Cupに参加しているヨットレースの経験豊富な人物だ。今回はゼネラルマネージャーでありながらチームUSAのエンジニアとしても参加しており、船体のデザインチームと密にやりとりしているとのことだ。


チームUSAのゼネラルマネージャーでCOOのGrant Simmer氏

 「America's Cupには10回も参加していますが、技術的なチャレンジが毎回変わっています。常に技術的な決断が必要になるのと同時に、スポーツとしても大きなチャレンジがあります」とSimmer氏。彼は、技術的に面白くなったのは「フォイル」という構造を取り入れ水上を飛ぶように航行し始めたころからだと言う。

 「フォイルは揚力で船体を持ち上げる役割を持っています。そのため、フォイルの鍵は軽量化と構造設計です。構造は薄く軽いのに、大きな負荷に耐え船体を持ち上げなければなりません。構造設計をいかにうまくやるかがポイントになります」(Simmer氏)

 10ノット以上の風が吹けば、船体は水面から浮かび上がる。浮き上がれば水の抵抗が大きく減り、極めて高速な航行が可能となるのだ。効率よく船体を浮かせるために、水中に突き出すダガーボードの水中翼であるフォイルの構造設計では、シミュレーションを繰り返すことになる。そのために船体に取り付けたおよそ1000個のセンサで、航行時のさまざまなデータを収集している。

 「ヨットの駆動力は風だけです。その風は一定ではありません。シミュレーションは風洞で実施するシミュレーションのようなものとは全く違います。風圧、風向き、水温、スピードなどのデータを見ており、GPSナビゲーションでは加速も監視しています。フォイルへの負荷強度も監視しており、揚力がどう変化するかも見ています」とSimmer氏。センサからは1日に500ギガバイトものデータを取得することがあるとか。

 これらのデータは、伴走するボートでリアルタイムに収集し監視している。「100Hzのペースで600チャネルからデータが入ってきます」(Simmer氏)とのこと。伴走する船上でデータをリアルタイムに分析し、結果をインカムでセーラーに伝え操船戦術にすぐに生かすことができる。ここでは、予測型の分析ツールなども利用している。

 収集したデータは、後からOracle ExadataのOracle Databaseにも蓄積され、集められたビッグデータを対象に高度な分析も行ってもいる。チームオーナーのEllison氏は常に技術的な開発を怠るなと言い、新しい技術の利用を奨励しているのだ。

さまざまな技術を駆使して速いボートを作り、それを操る人の能力を最大限にサポートする

 決勝の地となるバミューダ諸島には、チームUSAのクルーやスタッフの75人が移住し決勝に備えている。彼らはすでに現地の海や風の状況データを細かく収集しており、決勝で使うヨットをより高速にするための開発を行っている。ちなみに、15年ぶりの参戦となっているソフトバンク・チーム・ジャパンのメンバーも、40人ほどがバミューダに移住し同様の作業に当たっている。


チームUSA タクティシャンのAndrew Campbell氏

 「毎日毎日、海の上でテストプログラムを実施しています。デザインチームの要望に応じテストを行いますが、すべてのリクエストには応えられないのでなるべく絞り込んでいます。テスト結果を分析し、ボートの設計にフィードバックしています」と言うのは、チームUSAの戦術を決める役割であるタクティシャンのAndrew Campbell氏だ。彼は全米大学チームの代表やオリンピックにも参加した経験のあるセーラーで、America's Cupに参戦するのは今回が初めて。

 セーラーはヨットの扱いには長けており、船を走らせた結果“この感触は良い”というのは分かる。しかしながらそれが“なぜ良いか”までは分からない部分もある。「それがデータで裏付けできるのは、大きな価値です」とCampbell氏。テストは自然環境で行われる。「自然環境には、自分たちのコントロール効かない要素がたくさんあります。だからこそ、データによる管理は重要なのです。できるだけたくさんのデータから見極めることが重要です」とSimmer氏も言う。

 船体のゆがみや負荷、スピードなどのデータだけでなく、水温、風向き、風の強さなど自然の情報がないとセーリングについてきちんとした理解はできないとCampbell氏は指摘する。

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