山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国の「日本的サブカル市場」はブルーオーシャンとなるか

山谷剛史

2016-11-29 07:30

 二次元という近年登場した中国語がある。二次元とは、幼児向けを除く、青少年向けのアニメや漫画やゲームやライトノベルに加え(勢力としては小さいがボーカロイドも含む)、そこから派生した、声優やグッズやコスプレ用品を包括したサブカルチャー(コスプレは「2.5次元」と呼ばれることもあるが、二次元に含まれる)。

 以前はこの手のジャンルを総じて、アニメと漫画とゲームの頭文字をとって「ACG」と表現されていたが、ACGでは収まらなくなったのか、二次元と呼ばれるようになった。

 さてネット小説大手の「中文在線」というサイトが、中国のアニメ・ゲーム系サブカルチャー大手サイトでニコニコ動画同様のコメントが流せる動画サイト「AcFun」を運営する広州弾幕網絡科技と「GuluGulu」を運営する晨之科に、それぞれ2億5000万元(約40億円)ずつ投資し、両社の大株主となるというニュースが報じられた。

 中文在線はネット小説大手とはいえ、アニメ・ゲーム系サブカルチャーに強いサイトではない。つまりアニメ・ゲーム系サブカルチャーに強くないネット小説出版サイトが、その業界に参入することを意味する。発表においては、「キラーコンテンツを抱え、それを宣伝し、さらにユーザーコミュニティーの中で二次創作作品を作り膨らませていくことを期待する」と発表している。

 中文在線が「二次元」の市場を小さくないものと判断、「二次元」参入や、「二次元」のユーザーコミュニティー取り込みや、メディアミックス戦略に商機を見出したと思われる。

 中国の二次元市場はどれだけ大きいのか。調査会社のiResearchは、軽く触れる程度の二次元利用者を1億6000万人、二次元愛好者を6000万人と推定。また易観国際(Analysys International)は、ライトな二次元ファンを8028万人、ヘビーな二次元ファンを568万人と推定する。証券会社の中信証券は、二次元市場を2000~2500億元規模で、将来は5000億元規模になると有望視する。

 中国のコンテンツといえば海賊版が付きまとっていたが、状況は少し変わってきた。以前(ほんの数年前以前だが)、1970年代生まれの「70後」や1980年代生まれの「80後」は、社会人になるまでお金がなく、お金がないときの娯楽として海賊版の動画やゲームで遊んでいて、ファングッズにかけるお金も少なくなった。以前の世代と違って1990年代生まれの「90後」はファングッズにお金をかけるといい、また有料コンテンツも以前に比べて金を落とすという。

 面白い例としては、2013年に中国アニメとして第3の興行収入となったギャグアニメ「十万個冷笑話」では、2013年3月から8月の間にクラウドファンディングで映画化の出資を募り、5534人から計138万元(約8億8500万円)の投資を受けた(投資者には映画観賞券やDVDやシールなどが贈られた)。

 また中国産アニメ・ゲーム系サブカルチャーの百科事典サイト「萌娘百科」は、2014年以降、ユーザーからの寄付金だけで年間計2万元(約32万円)程度の寄付金が支付宝(Alipay)などを通じてあり、受け取りサーバなどの運営費をまかなっている。金額こそ小さいが、それ以前はなかった現象だ。

 成金を意味するネット発のスラング「土豪」も元はといえばネットゲームで大金をつぎ込む人のことをそう呼び始めたのがきっかけだ。多くはないだろうが、プレイヤーの周りに誰かしらがいたからこそ、この言葉が登場しているのだろう。

 このようにユーザーがコンテンツに金を落とすようになった。動画自体は正規版を無料で見られるようにしても、そこでファンの二次創作でファンが新しいファンを呼び、グッズを販売したり、イベントを開催したり、映画化などでお金が落ちる仕組みができてきた。冒頭に書いた、ネット小説の中文在線が有力なサブカルに特化した動画サイトやファンコミュニティサイトに投資したのも、ファンを増やす仕組みがほしいからこそなのだ。

山谷剛史(やまやたけし)
2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。現在NNA所属。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立(星海社新書)」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち (ソフトバンク新書)」など。

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