テック系の情報にアンテナが向いている人ならば、中国にいくと、QRコードとそれによる「支付宝(Alipay)」「微信(WeChatPay)」の支払いが普及していることに驚くだろう。今後QRコードによるサービスが中国でどれだけ進化していくのだろうと思ったり、または日本の様々な電子マネーカードが入っている我が財布を嘆いたりするかもしれない。
ところがそんな中国で、電子決済などを含む近距離無線通信技術(NFC)がこれから普及しそうなのだ。
中国のスマートフォンのほとんどの機種はNFCに対応していない。だが中国で人気のメーカーである華為(Huawei)やOPPOの一部機種が、NFCに対応するようになった。また21日に楽視(Le Holdings)が発表したスマートフォンの新機種「楽Pro3」にNFCが採用され、さらに手机中国というメディアは、9月27日(つまり今日)にも発表されると言われる、小米(Xiaomi)の次期モデルはNFCを採用していると報じている。これからNFC対応のスマートフォンが増える可能性は高い。
Appleやサムスンへの対抗心か、9月1日には小米は銀聯(UnionPay)と提携し、NFCを活用した小米Payというサービスを出した。買い物や交通機関で利用できるという。バスや地下鉄の改札機に関してはNFCリーダーが搭載されている(多くの市民の財布にはNFCの入ったバス乗車カードがある)ので、使えるとなれば小米Payは注目のサービスとなる。
実は中国人が肌身離さず持つ身分証にもNFCが入っている。既にSIMカードの購入では実名登録が義務づけられているが、キャリア最大手の中国移動(China Mobile)は、スマートフォンのNFCと身分証を連携させることを視野に入れていると報じられている。NFC対応のスマートフォンがより普及したら、スマートフォンと身分証が提携するサービスをスタートさせるだろうし、そうなれば身分証明書代わりにスマートフォンをかざすことが当たり前になるかもしれない。
NFCに関する技術面でも中国は強みを持つ。中国のWAPIという組織が策定したNFCのセキュリティ規格「NEAU」が2014年に欧州のECMAで欧州規格に制定され、また2016年に入って全会一致でISO/IECが国際標準に制定した。このWAPIの中心となったのが西電捷通という企業だ。西電捷通はまたECMAの会員企業でもあり、これが成功の秘訣の1つだったかもしれない。
このWAPIという組織は、以前Wi-Fiの中国独自のセキュリティ規格「WAPI」を提案し否決されている。その辺は「中国の独自無線LAN規格「WAPI」、国際標準化にこぎつけず」という記事で掲載している。その記事の最後で「WAPIを推進する中国はまだ諦めたわけではない。中国メディアに対し「WAPIはセキュリティに優れているので、次世代で採用される可能性もある」とコメントしている」と書いたが、10年もの時を経て、WAPIは同じく無線のセキュリティ規格で国際規格化に成功したわけだ。
敵対する西洋の規格を中国に持ち込むことにより、中国のあらゆる情報をアメリカなどに握られることを中国は極端に嫌う。中国のセキュリティ規格の後方支援があってこそ中国でのNFC普及は進んでいく。調査会社のStrategy Analyticsによれば、NFC対応スマートフォンでNFC技術を利用しているユーザーは世界で1億を超えるという。今後もっと増えていき、東南アジアや南アジアやアフリカ向けのスマートフォンにもNFCが多く採用されるようになれば(中国メーカーは最近本格的に東南アジアやインドに進出してシェアを上げている)、中国のNEAUも普及していくことになるだろう。
- 山谷剛史(やまやたけし)
- フリーランスライター
- 2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。