マイクロソフトが日本で「SAP HANA」対応ソフトウェアを「Microsoft Azure」からクラウドサービスとして提供開始した。競合するAmazon Web Services(AWS)も同様の取り組みに注力しており、激しい顧客争奪戦が繰り広げられそうだ。
SAP HANA on Azureが日本でも利用可能に
日本マイクロソフトが1月16日、パブリッククラウドプラットフォームであるMicrosoft Azureの国内データセンターにおいて、企業の基幹業務システムへの対応を一層強化したインフラ環境を提供開始すると発表した。
発表内容の詳細については関連記事をご覧いただくとして、ここではその中でも最大のトピックだった「SAP HANA on Azure」、すなわちHANAに対応したソフトをAzureからクラウドサービスとして提供開始した点に注目したい。
日本マイクロソフトが強化したAzureのインフラ環境において提供を始めたHANA対応ソフトは、SAPの最新版ERP「S/4HANA」をはじめ、オンライントランザクション処理向けの「Suite on HANA, OLTP」、オンライン分析処理向けの「HANA Enterprise for BW, OLAP」など。すなわち、日本でもAzure上でPaaSとしてHANAを、SaaSとしてS/4HANAを利用できるようになった格好だ。
日本マイクロソフトの佐藤久 業務執行役員クラウド&エンタープライズビジネス本部長は発表会見でSAP HANA on Azureについて、「HANAのワークロードに最適化されたインフラ環境を整備したことで、Azureは基幹業務システムにさらに幅広く活用していただけるようになった」と強調した。
また、会見に向けて来日した米MicrosoftのMark Souza(マーク・サウザ)クラウド&エンタープライズグループ ゼネラルマネージャーは、SAPソリューションにAzureが最適な理由として、図に示した5つを挙げた。

SAPソリューションにAzureが最適な理由
オンプレミス環境とのハイブリッド利用に勝算
ただ、Azureと同じパブリッッククラウドでは、AWSのサービスも同様に「SAP HANA on AWS」の展開に注力している。ちなみに、SAPジャパンがおよそ1年半前に、SAPアプリケーションをAWSサービス上で導入した国内企業が100社を超えたと発表したこともあり、従来のSAPアプリケーションのクラウド化については、AWSのほうが先行してきたように見受けられる。
そうした背景もあって、会見ではAWSとの戦いをめぐる質問も飛んだが、Souza氏は「SAPに対応したクラウド環境の充実ぶりについては、当社のほうがAWSより先行している」と力を込めて答えた。
HANA対応ソフトのクラウドサービスをめぐる動きで筆者が注目しているのは、SAPが自前のクラウドでサービス展開することにこだわっていないだけに、インフラとしてパブリッククラウドを採用する顧客の争奪戦は、AWSとマイクロソフトの一騎打ちになるのではないかとみられることだ。
HANA対応ソフトのクラウドサービスで高いシェアを獲得することができれば、それはすなわち、多くの企業の基幹業務システムを担う形になる可能性が高い。
一方、顧客サイドからすると、パブリッククラウドの2大勢力による競争は、品質の高いサービスを選択できるようになり得るので歓迎すべき動きだろう。
先ほど、従来のSAPアプリケーションのクラウド化については、AWSのほうが先行してきたように見受けられると述べたが、一方で従来のSAPアプリケーションのオンプレミス環境でマイクロソフトのプラットフォームを使用していれば、ハイブリッド利用という選択肢もある。マイクロソフトの勝算はまさにそこにあると見て取れる。
HANA対応ソフトのクラウドサービスをめぐっては、これからAWSとマイクロソフトの激しい顧客争奪戦が繰り広げられそうだ。それが、ひいては企業の基幹業務システムのクラウド化を促進することになるだろう。