案内情報がとびとびにしか提示できない場合でも、要所に次の案内が容易に見つけられるように工夫し(とはいえ多くなりすぎて他のものと紛れわかりづらくなってもいけない)、ユーザーが「正しい道筋にいる」ことを確認し、安心できるようにする必要がある。また、それに加えて「間違っていたらすぐにそれを確認できる」ようにする、できれば「間違った状態から復帰するための情報も提示」するようにしたい。たとえば、分岐を間違えたときにはすぐに逆向きの矢印が見つけられるようにしておくようなことである。そうした配慮の積み重ねで、全体のUXを向上することができるであろう。
移動以外でのナビゲーション
地図を見ながらなどの物理的な移動のナビゲーションに関して考えてきたが、地図自体の話と同様に、多くの内容はアプリケーションの使い方や、マニュアルの記述のしかたなどにも通ずる。目的を達するために次に操作すべき項目やその内容が何であるかを確認しやすくするべきであるし、対応するマニュアルのセクションなどもすぐにわかるようにナビゲートせねばならない。また、ユーザーがなるべく現在の状態を見失わないよう、留意すべきである。何かを間違えたときには間違えていることにすぐに気付けるようにすべきだし、そこからの復帰の方法もわかりやすくしておきたい。
何らかの意味でナビゲーションが必要となる場面は多い。それらの場面に良いUXをもたらすデザインをするためには、ユーザーが安心してナビゲートされるために必要な情報は何か、ということをうまく抽出・選別できるよう、注意深く観察・考察する能力を鍛えておくべきである。鍛えるに当たってはたとえば「音声通話のみで道案内する」など、制限された状況を想定・経験することも役に立つ。そうしたことを通じて、使用可能な媒体に応じて適切な情報デザインを施し、それをユーザーに提示するノウハウも同時に鍛えてほしい。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。HCI が専門で、GUI、実世界指向インターフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。