2016年は企業のクラウド利用が一気に広まった一年であり、基幹系を含むオンプレミスのシステムをクラウドに移行する動きも強まっている。クラウドベンダー側でも連携するケースが増えており、従来に比べて環境も整い、基幹系を含むシステムのクラウド移行の土台ができてきた。
こうした状況の変化により、クラウドは新たなフェーズを迎えようとしているのか。今回、日本マイクロソフトの吉田氏、NTT Comの林氏、日本IBMの安田氏、日本オラクルの竹爪氏を招き、座談会を開催した。モデレーターはZDNet Japan編集長の怒賀新也が務めた。今回は初回に続く2回目。
登壇者(順不同)
- 日本マイクロソフト株式会社 クラウド&ソリューションビジネス統括本部 Azure&クラウドインフラストラクチャ技術本部 クラウドプラットフォーム技術部 テクノロジーソリューションプロフェッショナル 吉田雄哉氏
- NTTコミュニケーションズ株式会社 クラウドサービス部 クラウド・エバンジェリスト 林雅之氏
- 日本アイ・ビー・エム株式会社 クラウド事業統括 クラウド・ソリューション 第二テクニカル・サービス シニア・アーキテクト 部長 安田智有氏
- 日本オラクル株式会社 執行役員 クラウド・テクノロジー事業統括 Cloud Platform事業推進室長 竹爪慎治氏
クラウドに移行しないことで起きるデメリットは
ZDNet システムのクラウド移行を考えるとき、クラウドに移行しないと「起きてしまう」ことについてお聞きしたいと思います。
林氏 クラウドを選ばなかった場合のデメリットですが、まずはクラウドという名前が非常に抽象的です。ただ、多くのお客様はやはりAmazon Web Services(AWS)を意識していると思います。私たちはITのインフラは適材適所であるべきと考えていまして、クラウドは選択肢の1つです。
NTTコミュニケーションズの林雅之氏
お客様がAWSを想定してクラウドとおっしゃっているときには、マルチテナントのクラウドを意識しているようですが、実際にはシングルテナントで「Dedicated(専用:ホスティング型プライベートクラウド)」で使いたい、あるいは単純にクラウドの機能が欲しい、活用したいけどデータの信頼性や法令遵守が障壁になっている、自社のデータセンターにもともとクラウドのモジュールがあるなどさまざまです。
いろいろなサービスの使い方、いろいろなクラウドがあるはずですので、例えばマルチテナント型のパブリッククラウドを使わないとなると、お客様はインフラがビジネスの制約にならないようにIaaSとしてののクラウドに価値を求めると思いますので、そこにはデメリットはないとしか言えません。
置き場所や提供モデルをきちんと選べば、クラウドがもともと持っている柔軟性や迅速性をオンプレミス上のインフラにも作れるようになるので、私たちはお客様が「クラウド」とつぶやいたときに、「どのクラウドを指していますか」と言って対応することが多いです。ですから不都合があるというよりも、オンプレミス側のインフラをクラウド化するときには「制限がある」と伝えています。
制限というのは、例えばすぐに増やせない、最初にキャパシティプラニングが必要であるといったことです。ユーザー企業の多くはデザインはしています。クラウドでもその考えは基本的には必要ですが、オンプレミスほど厳密にやらなくても大丈夫です。足らなくなったら増やせばいいし、いらなくなったらリリースすればいいという、贅沢な使い方がようやくできるようになってきました。
そういう考え方ができるようになりました。ただし、お客様は頭では理解しているのですが、なかなか腹に落ちるところまではいっていない印象です。
吉田氏 私はどちらかというとテクノロジよりもビジネスベースの話をすることが多いです。マイクロソフトはデジタルトランスフォーメーションに貢献するという形で、講演のタイトルにもほとんどクラウドという言葉は入れません。
要はデジタル化を推進するための基盤の選択肢の1つとしてクラウドを選びましょうーー移行するときにトラディショナルなものもありますし、クラウドネイティブなものもあります。両サイドの部分をトータルにアウトソーシングすることによって、柔軟性の高い経営にしていこうという話をするケースが増えています。クラウドにしないでオンプレミスのままでいると、経営に柔軟性を持たせられないというデメリットがあるのです。